★遺留分減殺請求をさせない遺言、普通のお宅でこそ書いてほしい らくらく文例3

遺留分減殺請求をやめさせる遺言

 

普通のお宅の相続こそが難しい。必ずもめます。
なんていうと皆さん、顔をしかめるでしょうね。でも目ぼしい財産は「実家」だけ、法定相続人は兄弟姉妹3人などというケース。分け方が難しくなるのは誰が見ても明らかですが、ではそのために何らかの対策を事前に講じるかというと・・・・、ほとんどの方が何もしません。遺言を書くだけで事態は劇的に変わるんですけどね。

 

■弟妹が「代償金を払ってほしい」と主張

普通のお宅の相続。こんな事例を紹介します。
2次相続です。被相続人(亡くなった人)は16年前に夫の遺産を相続した妻Aさん(88)。子は兄B(60)、弟C(54)、妹D(49)の3人です。
夫が亡くなった1次相続の時には不動産(家300万円、土地900万円)と貯金300万円の計1500万円あったのですが、すべてAさんが相続。相続財産が基礎控除額以下(この場合は4800万円)ですから、もちろん相続税は掛かりませんでした。

 

今回は、不動産(家は老朽化し50万円、土地の価額は微減で850万円)、そして貯金は300万円まるまる残っています。実は夫の死後、ほどなくして長男のB一家が同居し、それで貯金が温存できたのです。
ともあれ今回の相続財産は不動産900万円と貯金300万円の計1200万円。今回も相続税は掛かりません。

 

長男Bは当然、実家は自分のものと思っていました。A→Bへと所有権の移転登記をするだけだと。
ところがCとDは「均分相続」を主張。とにかく「きょうだいはみな平等のはずだ。法定相続分はそれぞれ400万円。兄貴が実家を相続するなら貯金は妹と折半して150万円ずつもらう。さらにそれでは400万円に250万円ずつ足りないから、申し訳ないけど俺と妹の分、500万円を払ってほしい」ときかないのです。

 

実家の相続1落胆B

目ぼしい財産が「実家」だけ、という相続は非常に難しい。肩を落とす兄のB

 

■相続が始まってからでは打つ手なし

弟妹の主張は「代償分割」という方法です。
家などの不動産は割って分けるわけにはいきませんから、法定相続分に足りない分を実家を相続する相続人が他の相続人に支払います(これを「代償金」といいます)。割と普通に行われている分割方法です。
しかし実際には、不動産で受け取る者と現金や預貯金で受け取る相続人との間に、しばしば感情的なあつれきが生じます。現に住んでいる家に住み続けるだけなのに、相続だからと兄弟姉妹にお金を支払う苦痛は察してあまりあります。

 

Bさんもご多聞に漏れずです。
会社をまもなく定年になるBさんはまさに今、あと5年雇用を継続してくれるよう会社と交渉中。ただでさえ切羽詰まっていたのです。
そんな折の弟妹からの金銭要求。
Bさんは、母の遺産の貯金300万円を半分ずつ分ければ2人は納得し遺産分割協議はすんなりまとまる、とばかり思っていました。
きょうだいの仲はよいと思っていましたから。

 

「あいつら(CとD)は、私に退職金が出るから『500万円なんて簡単に出せる』と思っているんです。しかし退職金は1500万円がいいところ。残り1000万円では老後資金にはぜんぜん足りない・・・・」
と意気消沈して話します。
「なんとかならないんでしょうか」
そう言われてもねぇ、相続が始まってしまってからでは遅いんですよ。

 

■「遺留分請求をしないよう」文面に盛り込む

以前、Aさんに相談されたとき私は、当然こういう事態を予測しました。
それで➀遺言を書くこと、②生命保険を活用することをすすめたのです。
Aさんは明るい顔で、「長男Bに私の家と土地を相続させる、CとDには私の貯金を折半で相続させる、でいいんですね」とおっしゃいます。

 

Aさんの気持ちはとてもよくわかります。
しかし、それではだめなんですよ。
貯金300万円は生命保険に換えるべきです。
しかも受取人をCとDにしてはいけません、長男Bにすべきなのです。
(その理由は次回、詳しく説明します)

 

ところがAさんは「CもDもいい子たちだから、Bを優遇しすぎるのは・・・・」と譲りません。どうしてもこの趣旨の遺言にしたいというので渋々私はうなづきました。
遺言書があるとないとでは、話がまったく変わってくるからです(遺言書があればBはかなり救われますから)。
さらに一般論として、「こういう場合には遺留分請求をしないよう兄弟姉妹にお願いすることが多いようです」と以下のような例を示しました。
次の例文です。

 

遺言書

  1. 私の財産のうち、私の家と土地は長男Bに相続させる。
  2. 私名義の○○銀行△△支店の貯金は、次男Cと長女Dに各50%の割合で相続させる。

CとDの相続分は遺留分に少し足りません。しかしあなたたちの兄Bの家族は夫の死後私と同居してくれ、体調がすぐれない私をよく介護し、生活費もすべて出してくれました。おかげで貯金は目減りさせることなくあなたたちに遺すことができたのです。この点をよく考えて、CとDは、遺留分減殺請求を行わないよう切に希望します。

平成○○年○○月○○日                  
○○県○○市○○区○○町○丁目○番○号       
遺言者  A 

 

 

■遺言により「遺留分」を顕在化させる

この相続の相続財産は1200万円。相続人は3人だから法定相続分は各400万円。各法定相続人の遺留分は200万円です。
遺言書はある意味では、相続人に不公平に分けるためのものです。
ですから遺言書があると「均分相続」を崩します。
今回は遺言を書くことにより「遺留分」を顕在化させることができるというのが最大のポイントです。

 

実家の相続でなぜ遺言が必要か

もめがちな”実家”の相続。遺言を遺す必要があるわけは「遺留分」を顕在化させるためです

 

遺言を書くという直接的な効果により今回、「遺留分200万円」という具体的な数字が生まれました。
遺留分は民法で認められている「法定相続人の権利」ですが、遺言書がなければ表面には現れません。
遺産分割協議で「私は遺留分を超えればいいよ(つまり、みんなの半分でよいということ)」という議論にはあまりなりません。あくまで法定相続分を基準にして話が進められるはずです。

 

ところが遺言では被相続人が、法定相続人などの取り分をあらかじめ決めます。相続人でない人や法人までもが分ける対象者になりますから、法定相続人の取り分が遺留分より少ないという事態が起きるわけです。だからこそ「最低限の取り分」としての遺留分が意味をもってきます。

 

遺言書がない場合、そもそも相続人間に「遺留分」という観念はありませんから、兄Bは遺産分割協議を決着させるためには母の預金300万円を弟妹に折半で渡したうえ、法定相続分に足りない250万円ずつを自腹を切って弟妹に払わなければならないはずでした(今回は事実、そうなったのです。遺産分割協議は全員一致でなければならないので、妥協せざるを得ないのです)。
上の図をご覧ください。もし遺言書があったなら、Bは遺留分に足りない50万円ずつを弟妹に払えば足りたのです。

 

さらに母親が最後のお願いとして「遺留分減殺請求権の不行使」をお願いしています。
弟妹が素直に”母の言葉”としてこれを受け止めてくれれば、Bは1円も払わずに無事相続を完了できたかもしれません。

 

もちろん弟妹が「兄が(母親に)遺言を書かせたのだろう」と態度を硬化させれば、遺留分減殺請求を行使するかもしれません。さらにこじれれば、家庭裁判所の調停や裁判に訴えることもないとはいえません。
遺言書は法を背景にした強い力を持ちますが、人間の感情面から見ると、書いたが故に問題をこじらせるという一面もあるわけです。しかし上記の遺言なら、ふたりが母の気持ちを理解してくれる可能性はあったと思います。
いずれにしても「遺留分」について触れた遺言書の決着は、母と子の日頃からの心の通い合いが左右する問題だといえるでしょう。

 

■遺留分不行使を希望しても法的拘束力はない

私の例示は適切であったと信じていますが、Aさんは遺言そのものを書きませんでした。
想像するに、自分が遺言書を遺すことで(Bに配慮した遺言になりますから)3人のきょうだいが余計にもめるかもしれないと嫌ったのでしょう。
結果として、Bは重い負担を負うことになりました。
「うちはきょうだい仲がいいから」を過信して失敗したケースのように思えてなりません。

 

なお母親の「遺留分減殺請求を行わないように願う」という遺言書の文言は、弟妹にとっては迷惑千万な大きなお世話であったでしょう。弟妹はこの希望をきかなければならないのでしょうか。そんなことはありません。
たとえ遺言書でも、法定相続人の遺留分を侵害することはできないとされていますから、この遺言の文言に法的な拘束力はありません。ですから弟妹は、母親の希望を無視して遺留分減殺請求をすることはできます。ただ、心理的にはかなりプレッシャーを感じざるを得ないでしょう。まさにその点を狙ったBへの援護射撃でしたが、結局、この遺言自体が日の目を見ませんでした。

 

次回は私が例示した「もうひとつの遺言書」を例示します。
遺言書と生命保険を使うことで、兄Bは1円も自分の資産を取り崩すことなく相続を完了できるという例です。
コレです ↓

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静岡県遺言普及協会
ジャーナリスト石川秀樹相続指南処行政書士

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石川 秀樹

遺言、相続対策と家族信託の専門家です。特に最近は家族や事業を守るための民事信託への関心を強めています。遺言書や成年後見といった「民法」の法律体系の下では解決できない事案を、信託を使えば答えを導き出すことができるからです。
40年間、ジャーナリストでした。去る人、承継する人の想いがよりよくかみ合うようにお手伝いしていきます。

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石川秀樹

1950年生。ジャーナリストです。相続対策家(行政書士)。小さな出版社の社長でもあります。何を書いてもユニーク。考え方がまともなだけなんですが。このブログは遺言相続、家族信託、それと老後のあれこれについてが中心。

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