★ドラマ『遺産争族』、遺留分請求したらを考えてみた──かくして優良中小企業が消える?!

遺産争族を考えた
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ドラマ遺産争族(テレビ朝日、木曜夜9時)がおもしろい。
葬儀会社「カワムラメモリアル」のオーナー、河村龍太郎が家族に遺言を残すことから騒動が始まる。出演は伊東四朗、岸部一徳、余貴美子、室井滋など個性派勢ぞろいの中に、向井理、榮倉奈々が異質の空気を吹き込んでいる。
5話、6話に入って龍太郎の遺言内容が明らかになりドラマは佳境に入った。

 

ストーリーは詳しく述べないが、ドラマであえて「設定」を外している問題がある。
遺留分減殺(げんさい)請求だ。
相続でもめたときには決まって出てくる「法定相続人の奥の手」、これがなぜか(今までのところ)『遺産争族』では語られない。
遺言を書くのはいいが、「遺留分」のことを忘れていると遺言者の予期せぬ方向にドラマが進むこともある。
私流の仮想のストーリーを考えていたら、興味が尽きず眠れなくなってしまった。

 

■争族を避け、全財産を団体に寄付?!

河村家の人物相関図は以下の通りだ。

葬儀業河村家の争族

創業オーナーが遺言を遺そうとしたことで家族のきずなが揺れていく

 

創業者は河村龍太郎。陽子(長女)、月子(次女)、凛子(三女)の娘3人がいて、陽子の夫が恒三である。会社は娘婿のビジネスセンスのおかげで大きくなった。次女の月子はこの会社の専務を務めているが無能で欲が深い。陽子と恒三には一人娘の楓がおり、お嬢様育ちのバツイチ。楓が苦学して医師になった佐藤育夫に恋をして結婚。育夫は入り婿になり「河村」姓に。これ以前、育夫は心臓発作を起こした龍太郎の命を救っている。

 

5話で明らかになった遺言は(心臓発作で龍太郎は再び入院。その時に弁護士を呼んで「危急時の遺言」を遺した)、「遺産を海外で医療活動を行う団体に全額寄付する。どの団体に寄付するかについては孫の夫、河村育生に全権委任する」というもの。この遺言は、龍太郎が口述する直前に育夫の希望を聞いたときに語られた言葉を受けたものだった。育夫は「できるだけ皆が争わなくていい遺言にしてください」と告げたのだった。河村家では、法定相続人である3姉妹と恒三、正春(まー君、月子の息子)までをも巻き込み”あられもない遺産争族”が起きていた。

 

本来、危急時の遺言は秘密が保たれるものだが、ドラマの狂言回し役、正春が花束に盗聴器を仕込み衝撃的な内容をつかみ、一同に暴露した。
相続による莫大な金品を当てにしていた登場人物たちが今後どう動くか、私にはわからない。しかし6話まで終わって、「遺留分減殺請求」の話が一言も出てこないことに少し違和感をもった。7話以降で出てくるのか、それともストーリーの展開上、あえて触れないでおこうということなのか。

 

「全財産を寄付されたって、遺留分を使えば半分は取り戻せる。十数億の半分を取り返せるなら問題ないじゃないか」
傍らでドラマを観ていた妻に私は、身も蓋(ふた)もないことをつぶやいた。
しかし今、冷静になって考えると「遺留分」を持ち出すとドラマはあらぬ方向に進んでしまうかもしれない(それはまずいのだろう)。
以下、空想である。(オリジナルなストーリーとは全然関係ない)

 

■遺留分減殺、実際は難しい作業

いくつか「前提条件」を決めておきたい。
河村龍太郎の財産は12億円である。自宅と土地で5億、稼ぎが順調なカワムラメモリアルの自社株(非上場)も5億、そして現金が2億円。
法定相続人は陽子・月子・凛子の3人。法定相続分各4億円、遺留分各2億円。
株式は非上場だから市場性はない。しかし会社経営を目指す者にとってはきわめて重要。6話までで推測すると、各登場人物の株式占有率は龍太郎40%、恒三17%、月子12%、正春3%、一族以外の所有28%といったところか。辣腕の恒三だが、龍太郎の警戒心もあって所有株式数は意外に少ない。月子は無能だが正春と合わせると恒三に肉薄し、「次期社長」を狙っている。

 

遺言書の文言がいまひとつあいまいだが、財産処分の全権を託された育夫の立場は事実上の「遺言執行者」ということになる。3姉妹の遺留分減殺請求の処理も育夫に任される。
さて、遺留分の何が問題か。
遺言書は遺産分割協議に優先する。法定相続人がいくら「このように分けてほしい」と嘆願しても遺言者の意思が優先される。今回のドラマ、龍太郎が「どこかの団体に寄付する(遺贈する)」と遺言を遺せば、それは覆せない。ところが相続人の「遺留分」は遺言書の効力を一部破ることができるのである。民法(1028条)による強行規定だからだ。減殺請求をすれば法定相続分の2分の1は取り戻すことができる。

 

3人はどのような減殺請求をするのだろうか。
陽子はこの家で生まれ育ち、この家で専業主婦をしてきた。いわば”自分の城”。だからこれを取り戻したいだろう。
月子はなんといっても自社株の所有権。遺留分(2億円)に相当する分を株でもらえれば、とりあえず現社長恒三の持ち株を上回ることができる。
凛子は現金が何よりほしい。アメリカにいる恋人の会社を救うために金が必要だからだ。

 

遺留分減殺請求は相続人が各個で行う。
陽子の請求には無理がある。自宅の価値は5億円、請求できる金額は2億円。せいぜい共有名義を得られるにすぎない。また月子が自社株を狙っている以上、恒三は妻に「株を所有しなければ経営権を月子に奪われ、(夫婦ともども)放り出されることになる」とおどかすだろう。
月子の場合も問題ありだ。皆の幸せを考える婿殿が「経営の実権が月子に移る」ことをそのまま容認するとは思えない。
凛子の場合、残った現金すべてを渡してしまうと育夫の遺言執行に支障が出かねない。

 

■自社株めぐり多くの”火花”

結局あり得る選択肢は、➀陽子は自宅取り戻しを断念、自社株に換える、②管理者である育夫は「自宅」を売って現金にし当面の諸費用に充てる、③自社株は陽子、月子に均等に分ける(これにより株式の割合は陽子16%、月子28%、恒三17%となる)──。陽子は自宅を出てマンションなどに住み、自社株は恒三との駆け引きに使う(第6話で夫婦は離婚の危機を迎えた)。月子の野望はとりあえず封印。凛子だけは現金を得てさっさとアメリカに帰る、ということになりそうだ。

 

河村家の遺産争族はこれでケリがつくのだろうか?
それは楽観的に過ぎるかもしれない。
カワムラメモリアルの経営権争いは決着がついていない。
数字上の筆頭株主は月子である。社外に”流出している株”の買い取りに必死になるだろう。恒三も同じ。まず妻を説得し、社外株主にも手を回す。この勝負、老練な恒三の方に分がありそうだが・・・・。

 

時が移って2、30年後。陽子や恒三に相続が発生する。
この場合の相続人は、残った配偶者と楓しかいない<下の図>。

葬儀業河村家の争族2

ストレスにさらされる恒三の方が先に逝く可能性が高い?

 

もし恒三が先に逝ったら・・・・。カワムラメモリアルは危機に陥る。
月子には相続権がないので、陽子や楓を説得して株を買い取るしかない。
買い取れたとしても「この人で経営は大丈夫か」という危惧は残る。
かといって、他に株を譲るべき「後継者」が社内に育っているかどうか。
もし恒三が長く実験を握れたとすれば、ある時点で取引金融機関から三顧の礼をもって”後継者候補”を引き抜いて来る、などの対策をとっているかもしれない。

 

■十分に準備して、よい「想続」を!

ドラマは私の”妄想”とは別の形で進むだろう。
龍太郎は当面死なずに「危急時の遺言」も無効になり(この形式の遺言は、危機を脱してから遺言者が半年生存すると無効になる)、雨降って地固まるで家族のきずなは逆に強まるかもしれない。
それはまことにけっこうな結論だ(基本、私はハッピーエンドが大好きなので)。

 

しかし、オーナー社長の皆さん、そしてこの現世で絶大な権力をお持ちのあなた、遺言を書くときには神様のように聡明で冷静なこころで紙面に向かってください。くれぐれも感情が激したときに書かないように。
その遺言、迷惑なんです。誰も幸せにしません!

 

婿殿は誠心誠意、本気で「できるだけ皆が争わなくていい遺言にしてください」と言っている。
つくづく思うのだが、人が病院や施設に入るときには何も持っていけない。
身一つで、自分を預けるしかない。仕事で残した業績も、趣味で開いた独自の世界も、何も持ってはいけない。
”あの世”も同じ、どころか持っていけるのは魂だけだ。

 

築いてしまった財産、獲得してしまった栄誉や誇りはあなた一身のものではあるけれど、永久に持って行ったり身に着けたりはできない。
ならばじょうずに準備しましょう。
みんなが争わないどころか、みんなが喜ぶ相続の仕方はあるはずだ。
「みんな」は家族だけではないかもしれない。社会まで含んだ「みんな」である。

 

思いついたら家族を説得しよう。
そこまでやって、あなたの遺言書は完結だ。
「遺産相続」──難しいことではあるがぜひ「遺産想続」にしてほしい。
あなたの想いが続くように、そんな相続を。

 

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<行政書士 石川秀樹(ジャーナリスト)>

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ABOUTこの記事をかいた人

遺言、相続対策と家族信託の専門家です。特に最近は家族や事業を守るための民事信託への関心を強めています。遺言書や成年後見といった「民法」の法律体系の下では解決できない事案を、信託を使えば答えを導き出すことができるからです。 40年間、ジャーナリストでした。去る人、承継する人の想いがよりよくかみ合うようにお手伝いしていきます。