★法定相続分とは──もらえる権利ではありません(相続裁判で参照される取り分です)

法定相続分とは

 

法定相続分とは、民法第900条が定めている遺産の分け方です。
ここに書かれている「相続分」については後で説明するので、条項の中身は飛ばして、冒頭の(法定相続分)という言葉だけにご注目ください。↙★★

 

民法第900条 (法定相続分
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一  子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

 ※900条4号は非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1と定めてきた。これが、憲法14条の定める「法の下の平等」に反しないか争われ2013年9月4日、最高裁は「子供は婚外子かどうかを選ぶことはできず、それによって子供が差別されるようなことはあってはならない」としてこの条項に違憲判決を下した。現在は非嫡出子の法定相続分は嫡出子と同じである。

 

★★↗「法定相続分」ですよ。わざわざ「法定」とうたっている。これでは▼遺産をもらえる当然の権利、▼この割合まではもらえると保証されている私の取り分──と思ったとしても無理はありません。
ところが「法定相続分」は相続人の”権利”ではない、というのが定説です。
では、なんだというのでしょう。
相続争いが裁判に持ち込まれた時の「分ける目安」だというのです。

 

相続では、遺言書が優先です
遺言書がない
ときには、法定相続人全員で遺産分割協議を開いて分割割合を決めます。
決定は「全員一致」でなければなりません。
決められない場合は、最終的には裁判に持ち込まれます。
その際に、各順位の相続人の遺産の配分割合として定めたものがこの第900条である、というわけです。
「裁判上の目安」なのだから、遺産分割はどのような割合で分けようと自由なのです
しかし実際の遺産分割協議では、この「法定相続分」の割合をもとに分けることが多いようです。

 

民法では「自分の財産だから、どう分けようとあなた(被相続人)の自由ですよ」とはどこにも書いてないんです。
それは遺言書についても同じ。「自由に指定しなさい」などとは書かないで、こんな表現です。

(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第908条  被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

 

ね、実に分かりにくい。
でもまあ908条を意訳して、”被相続人は遺言で自分の財産を自由に分けることができる”と解釈されています。

 

繰り返しますが、法定相続分は「もらえる権利」ではないんです。
遺言だけでなく、法定相続人が集まって行う遺産分割協議でも「法定相続分」にこだわることなく、自由に配分を決められます。
もちろん全員が一致すればですが。
先日、相続セミナーを行ったとき高齢の方から、「法定相続分があるんですが、遺言とどっちが強いんですか?」との質問を受けました。
この方は法定相続分を”権利”だと思っているんですね。
「(優先されるのは)もちろん遺言書です」とお答えしました。

 

もっとも、話をもっとややこしくするものがあります。
遺留分」です。
遺留分は法定相続人に与えられた権利です(今度は「権利」といっていいです)。
この権利によって各相続人は遺言などで侵害された自分の法定相続分の半分までを取り戻すことができます
(相続人が被相続人の親しかいない場合は、親が取り戻せるのは遺産の3分の1です)。
半分取り戻し権については、遺言にも勝つわけです。
しかし遺留分は、遺留分を侵害して多くを得た相続人または受遺者(遺贈された者)に対して取り戻しを請求しなければ戻ってはきません(これを「遺留分減殺請求」と言います。ゲンサイセイキュウです)。
請求しなければ相続はそのまま確定します。

 

◇実際の分け方について

法定相続分は、あなたが亡くなった時に戸籍上の配偶者がいるか、いないかでガラっと変わります。
配偶者は常に相続人です。その法定相続分は常に2分の1以上を超えています。
だから「相続人」の中に配偶者がいない場合は、各順位の相続人の相続分は大幅に増えることになります。

 

配偶者がいない場合 第1順位は子、子がいなければ第2順位の親、親もいなければ第3順位の兄弟姉妹が相続人となります。
権利がある順位の相続人だけで分け合い、取り分は平等です。
いま書いた意味、おわかりですか?
第1順位の人が1人でもいれば、第2、第3順位の人は相続人ではありません。
第1、第2、第3順位をまぜこぜで分配することはありません。

 

▽配偶者がいる場合

法定相続人の順位表

 

相続順位 血縁相続人 血縁相続人の相続分 配偶者の相続分
第1順位 1/2 1/2
第2順位 直系尊属 1/3 2/3
第3順位 兄弟姉妹 1/4 3/4

 

民法第900条が定めている「法定相続分」を表にしたのがコレです。

  • まず第1順位の「子」が相続人になるときは、子に2分の1が分けられ、配偶者には残りの2分の1が与えられます。
  • 子がいないので、第2順位の親たちが相続人になる場合は、親に3分の1が与えられて、残りは配偶者に分けられます。
  • 子も親もいない場合に第3順位の兄弟姉妹たちが相続人になりますが、その場合は、兄弟姉妹たちには4分の1しか分けられません。残る3/4が配偶者に与えられます。
  • さらに、兄弟姉妹のうち、異父母(半血)兄弟のもらい分は、全血兄弟の半分となります。これは不当差別だという意見がありますが、現在の民法ではまだそのままになっています。

 

配偶者と同等なのは「子」だけ。
「親」「兄弟姉妹」は1/3、1/4ですから相当少ないですね。
これを同一順位の相続人で均等に分け合うというのが法律(民法)の趣旨です。
ですから子が3人いれば子1人の取り分は「1/2×1/3=1/6」ということになります。
兄弟姉妹の場合は「1/4×1/X(相続人の数)」です。

 

法は「均等に」といっても現実はその通りにいくことはめったにありません。
不動産などは元々分割不能の財産ですから分け方は難しくなります。
ここで「法定相続分通りに分けよう」と頑強に主張する法定相続人がいると、相続紛争ら火が付くことになります。
「法定相続分」はあくまで”目安”であることにご留意ください。

参考文献: 『らくらく遺言』(佐々木悠次、ミーツ出版)

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石川 秀樹

遺言、相続対策と家族信託の専門家です。特に最近は家族や事業を守るための民事信託への関心を強めています。遺言書や成年後見といった「民法」の法律体系の下では解決できない事案を、信託を使えば答えを導き出すことができるからです。
40年間、ジャーナリストでした。去る人、承継する人の想いがよりよくかみ合うようにお手伝いしていきます。

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石川秀樹

1950年生。ジャーナリストです。相続対策家(行政書士)。小さな出版社の社長でもあります。何を書いてもユニーク。考え方がまともなだけなんですが。このブログは遺言相続、家族信託、それと老後のあれこれについてが中心。

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