★「相続させない」という遺言書 らくらく文例9 怒りにかられて書かないで!

「相続させない」という遺言書

相続させない」という遺言は有効でしょうか。
「書いてはならない」という条文は民法にはないので、書くことはできそうです。
ただし実際に「ゼロ円」にできるかというとビミョーです。

 

例えばこんな文例になります。

遺言書

遺言者○○○○は、以下のように遺言する。

  1. 遺言者の長男△△△△は、10年の長きにわたり私ども夫婦と同居していたが20年前、ささいな口論から別居、以後はこちらから手紙を出したり電話をしても一切の反応がない。77年前に妻□□が交通事故に遭い長期の入院を余儀なくされたときにも、人を介して連絡したにもかかわらず、見舞いに来ることもなかった。
    また遺言者の次男▼▼▼▼も兄に同調して、私ども夫婦と縁を切ったも同然の状態となり、20年来音信はない。
    よって遺言者は、長男△△△△と次男▼▼▼▼には私の財産を一切相続させない
  2. 遺言者の一切の財産は妻□□に相続させる。

平成○○年○○月○○日                  
静岡県静岡市○○区○○町○丁目○番○号       
遺言者  静岡太郎 ㊞ 

 

■「遺留分」は尊重される

この遺言を書いたとしたら、この人の財産はどうなるのでしょうか。
法定相続人は妻と兄弟2人。
一応、遺言書は有効ですから妻が全財産を相続します。

 

「相続させない」という遺言書

「相続させない」という遺言書は有効なのだろうか

 

しかし「遺留分」の問題が残っています。
兄弟が遺留分減殺請求をすれば、財産の4分の1は兄弟のものとなります。
(妻の法定相続分1/2、兄1/4、弟1/4。遺留分はその半分)

 

民法は相続財産の処分について、遺言者の自由意思を認めている一方、法定相続人の最低限の相続分を「遺留分」として認めています。
相続財産は被相続人の財産ではあるものの、「相続人の生活を守るためのもの」という観念も併せ持っているからです。

(遺言による相続分の指定)
第902条  被相続人は、前二条の規定(※法定相続分)にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。

 

■民法はバランス感覚を要求

遺言を書くとき、民法の精神を理解することはとても重要です。
民法が意味するところは「バランスをとってください」ということ。
あなたの財産だから、基本は勝手にしてもよろしい。でも、(誰の支えもなくあなた1人で築けたわけでもなく)家族もあなたを当てにしているところがあるのだから、そこのところをよく考えてくださいよ──と、こんな感じではないでしょうか。

 

それに、現実問題としてこの遺言書ではすべてがぶち壊しです。
「遺言を書きたい」と来訪されたこの人は85歳。
奥さんは80歳で脚が悪く、少し認知症も出てきたそうです。
だから自分の亡き後を心配して相談に見えたのです。

 

なのに、いきなり「相続させないという遺言の書き方を教えてほしい」。
長い時間を掛けて話を伺ったのですが、別居に至った経緯を私は得心できませんでした。
きっかけがあって長男の側が爆発、父は意地を張りそのまま別居に至ったのです。

 

公平に見て、非は双方にあるような感じがしました。
でも父は断固たる拒絶姿勢。子の側も怒りで応じました。
以来20年、切実に死を意識する時期になっても当事者は頑なで、こんな遺言を書こうとしています。
誰も幸せにしない遺言書。
これでは遺言がかわいそうです。

 

「いい加減にしてください」
私は説得し、いろいろ紆余曲折はありましたが、結局この遺言書は日の目を見ないで済みました。
意地を張り続けていれば、奥さんの切迫した状況を鑑み「任意後見契約」を結ぶ方向に行ったかもしれません。
近くに実子が2人もいるのに、なんという結末でしょう。
でも結局、父子が和解してくれ、その心配はなくなりました。

 

■遺言に怒りをぶつけないで!

遺言の技術としては、時に「相続させない」と突っ張ってみたくなることもあるかもしれません。
しかし、意趣を返すような遺言を私は基本的に支持しません。
あの世にまで恨みつらみを引きずる気なんですか?
その恨み、本当に相手だけが悪いのでしょうか。

 

遺言を書こうとすると、いろいろなことを見直すことになります。
人生の振り返りです。
人は聖人君子ではありませんから怒りにかられることはあるでしょう。
でも、最後の一歩、踏みとどまってほしいと心から願います。

 

人生の終わり際がつまらないものになってしまわないように!
もし「相続させない遺言」をお考えの方は、そこのところを今一度見つめ直してください。

 

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石川 秀樹

遺言、相続対策と家族信託の専門家です。特に最近は家族や事業を守るための民事信託への関心を強めています。遺言書や成年後見といった「民法」の法律体系の下では解決できない事案を、信託を使えば答えを導き出すことができるからです。
40年間、ジャーナリストでした。去る人、承継する人の想いがよりよくかみ合うようにお手伝いしていきます。

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石川秀樹

1950年生。ジャーナリストです。相続対策家(行政書士)。小さな出版社の社長でもあります。何を書いてもユニーク。考え方がまともなだけなんですが。このブログは遺言相続、家族信託、それと老後のあれこれについてが中心。

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