★1次相続では妻に遺産を集中。合意ができていても遺言を! らくらく文例10

1次相続ではお母さんに全財産を

1次相続では奥さんに遺産を集中させる場合が多いようです。
相続人の間でそのような合意ができている場合でも、遺言を書く意味があります。
相続人の意思をグラつかせないことと、銀行の預金凍結を早期に解かせる効果があるからです。

 

日本では9割くらいの確率で夫が先に亡くなりますので、1次相続は父親の死により始まるのが一般的。2次相続は母親が亡くなった時です。
1次相続では、多くの家庭で「お母さんに”とりあえず”相続してもらおう」ということになります。
夫婦で築いた資産ですし、きょうだいの対立を避ける意味もあります。
また配偶者は税金面で優遇されているので、まとまりやすいというのも確か。

 

■妻の老後に配慮、子の相続は後回し

「静岡家」の相続。被相続人は父親の静岡太郎。法定相続人は妻花子、長女東京みどり、長男静岡一郎、次男二郎の4人。
課税遺産総額は7000万円。内訳はマイホーム4000万円(家1000万円、土地3000万円)、預貯金と上場株式などで3000万円。

 

太郎さんは次のような遺言書を遺しました。

 

遺言書

第1条 遺言者は、私が有する不動産や金融資産及び一切の財産を、私の妻花子(昭和17年10月3日生まれ)に相続させる。

第2条 遺言者は、この遺言の執行者として私の長男一郎(昭和32年2月11日生まれ)を指定する。
2 遺言執行者は、この遺言に基づき不動産に関する登記手続き並びに預貯金や株式等の金融資産の名義変更、解約、払い戻し等一切の権限を与える。また○○銀行の貸金庫の開扉・解約その他この遺言執行に必要なすべての行為をなす権限を与える。

付言 長女みどり、長男一郎、次男二郎はきょうだい力を合わせて、お母さんの老後を見守ってください。
お母さんは私の死亡後、自宅でひとりで暮らすことになります。みどりも二郎も母親思いですが静岡に住んでいません。一郎は幸い静岡市内に住んでいるので遺言執行者に指名し、諸々の手続きをお願いしました。働き盛りですからしょっちゅう顔を見せることは難しいでしょう、無理しなくていいです。ただ花子が心配になるので、セキュリティ会社と相談して、なんらかお母さんの日常を「見守れる」システムをわが家に導入してください。
老後は何が起こるかわからないので、お母さんに資産のすべてを預けることにしました。子どもたちが理解して、お母さんを盛り立ててくれることを希望します。

平成○○年○○月○○日                  
静岡県静岡市○○区○○町○丁目○番○号       
遺言者  静岡太郎 

 

 

■生前に相続を話し合っておくのが最良の対策

相続を問題なく乗り切るコツは、事前に親子間、兄弟姉妹間で「相続をどうするか」よく話し合っておくことです。
親の死を前提にするので話しにくいことがあるでしょうが、話しておかないと後悔する結果になることが多いのが相続です。
話し合うこと。それが「相続技術」の第一歩です。

 

皆が静岡家の事情、父親や母親の想いをよく理解していれば、遺言は必要ではないかもしれません。
しかし皆が話し合ったことの合意事項の証明として「遺言」を遺すことは大いに意味があります。
と言うのは、静岡家は「庶民だ」といいながら金融財産が割と多いです。
自由になるお金が3000万円。皆のどから手が出るほどほしいでしょう。

 

ですから遺言書がなければ、きょうだいの誰かが「500万円でもいいから相続したい」と言い出せば、たちまち「私も」「僕も」ということになりかねません。
すると夫の太郎さんがさんざん心配している「妻の老後」が不安定になりかねません。
皆で話し合って得た合意は「1次相続ではとにかくお母さんに相続を集中させる。静岡家としては相続の本番は2次相続。その時までにマイホームをどうするかを考えておく」です。

 

■相続税対策からも話し合いは密に

相続税のことをちょっと説明しておきましょう。
課税遺産総額は7000万円。
この家の基礎控除額は「3000万円+600万円✕相続人数=5400万円」。
法定相続すると計78万円相続税を支払わなければなりませんが、妻の花子さんがすべてを相続すれば1円もかかりません(計算法は省略)。
配偶者には「税額軽減の特例」があり、1億6000万円か法定相続分(課税価額の1/2)までの相続であれば非課税となるからです。

 

しかし配偶者がすべてを相続した場合、1次相続では相続税を大幅に節約できるものの、2次相続で敵(かたき)を打たれることがよくあります。配偶者の特例を使えない相続人ばかりとなるからです。
静岡家の場合でも、1次相続の7000万円が手つかずで残ると、きょうだい3人の相続で計219万円かかる計算になります。

 

ところが静岡市内で賃貸住宅に住んでいる長男一郎さんが「実家」を相続すると、「小規模宅地の特例」が使え実家の土地(3000万円)を8割引きで相続できるようになり、全体の相続税を大幅に軽減することができます。
と言っても、一郎さん自身は他の姉弟に比べ大きな財産を得ることになるので、ふたりから代償金を求められるかもしれません。
いくらくらいが妥当な金額か、今から話し合っておけば合理的な結論を導き出せるでしょう。

 

■執行者に明確な権限を付与

ちょっと横道にそれました。
もう一つ別の話をしましょう。
あらかじめ話し合った結果を遺言書にするなら、私は自筆の遺言書で構わないと思います。
お金を出し、手間暇をかけ他人に遺言の中身を知られる(公証人と証人2人は当然に内容を知ることになります)公正証書にする必要はありません。
法的な効力は自筆遺言も公正証書遺言も変わりません。

 

ただし、このように単純な遺言書であっても、必ず遺言執行者を指定してください。
と言うのは、わからずやの銀行にものを言わせないためです。
相続が発生すると銀行等の機関は、被相続人名義の預金を”凍結”します。
通帳と印鑑を持っていても、引き出しに応じません。カード使用も不可。

 

これは遺産分割協議がまとまり相続人が正式決定するまで続きます。
しかし公正証書遺言で遺言執行者が指定されていると、銀行は二つ返事で引き出しでも名義変更でも応じるようになります。
ところが自筆遺言だと、家庭裁判所で検認を受けている遺言書を持って行っても(担当者の性格にもよるようですが)応じてくれない場合があるようです。
遺言執行者が書かれていないと、ほぼ100%解約に応じないだろう、と言われているくらいです。

 

■銀行が頑な、ならば本社に手紙を

「ようです」「だろう」とあいまいな書き方をする理由は、銀行によって対応が違うからです。
同じ銀行でも店により、人により判断が異なると言われています。
つまり銀行は、「なぜあいつに引き出させた!」と他の相続人に怒鳴り込まれるのを恐れています。
それで独自の内規をつくり、ガードを固めているわけです。

 

しかし今回書いた遺言書では、遺言執行者に明確な権限を付与していますから銀行は引き出しや名義変更にも応じるでしょう。
通帳の細かい情報(銀行名や支店名、口座番号等)を書かなかったのには意味があります。
遺言で1字でも書き間違えるとやっかいなことになるからです。
細かく書けば書くほど上げ足を取られます。だからザクッとまとめる方が合理的。

 

これほど配慮をしても、銀行の担当者によっては「自筆遺言による預金凍結解除」を認めないケースがまれにあります。
「他の相続人に遺留分減殺請求をされたらどうする?」などということまで心配してくれるのです。まったく大きなお世話、銀行の口出し無用です!
こういう人物には何を言っても無駄なので、銀行の本社に宛てて遺言書の写しとともに今までのやりとりを克明に書いて(もちろん相手を名指しして)「早急に対応せよ」と申し入れましょう。上からの指示がない限り、こういうご仁は折れません。

 

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静岡県遺言普及協会
ジャーナリスト石川秀樹相続指南処行政書士

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石川 秀樹

遺言、相続対策と家族信託の専門家です。特に最近は家族や事業を守るための民事信託への関心を強めています。遺言書や成年後見といった「民法」の法律体系の下では解決できない事案を、信託を使えば答えを導き出すことができるからです。
40年間、ジャーナリストでした。去る人、承継する人の想いがよりよくかみ合うようにお手伝いしていきます。

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石川秀樹

1950年生。ジャーナリストです。相続対策家(行政書士)。小さな出版社の社長でもあります。何を書いてもユニーク。考え方がまともなだけなんですが。このブログは遺言相続、家族信託、それと老後のあれこれについてが中心。

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