★想いを伝えたいなら「付言」を使え!”争族”を未然に防ぐ遺言書 らくらく文例6

付言を活かした遺言書
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遺言書の「付言事項」は単なる付け足しの文章ではありません。
民法条文の裏付けがないので「法的拘束力がない」と言われますが、遺言者の人生最終盤の想いを伝えるならこの文章しかありません。
付言」が主役となっている文例をご紹介しましょう。

 

例に出すのはAさん(75)のお宅です。
Aさんは元高校教師でした。妻(71)と長男(43)夫婦と同居しています。他に家族は東京にいる長女(45)と次男(39)で、いずれも結婚しています。
相続財産は総計4600万円、内訳は▼マイホーム(家と土地で)2000万円、▼貯金は甲、乙、丙銀行に各800万円、400万円、400万円預けています。他には▼1000万円の死亡保険金の生命保険があり、これは妻が死亡保険金の受取人になっています。

 

■同居の長男夫婦に配慮した遺言書

遺言書

私は公務員であり、曲がったことをせず慎ましく生きてきました。幸い妻も育児に家事に、子どもたちが成人してからは仕事に出て家計を助け、あなたたちを立派に育て上げてくれました。
あなたたちきょうだい3人は家庭を持ち、元気に暮らしています。立派です。これからも3人、仲良く助け合って自分の家族を守ってください。そして、お母さんのことを頼みます。
さて私は、以下のように遺言します。

 

1 現在住んでいる私名義の家と土地は妻○○に相続させる。
2 甲銀行の私名義の預金は長男□□に相続させる。
3 乙銀行の私名義の預金は長女△△に相続させる。
4 丙銀行の私名義の預金は次男××に相続させる。
5 祖先の祭祀を主宰する者として長男□□を指定する。

 

遺言は以上ですが、△△と××は不満を感じるかもしれませんね。
でも、我慢してください。お母さんの収入は今後、遺族年金だけになります。家は当分お金に換えられませんから、頼りになるのは保険金だけです。
長女の△△は私の療養中に何度も見舞いに来てくれ、やさしさが身にしみました。
特別のごほうびをあげたいくらいですが、まずはお母さんのこれからのことを優先したので、あなたに格別のことをしてあげられませんでした。

 

□□に相続させる預金残高は800万円で、△△と××より多めです。これは□□に私の供養をお願いしたいためです。お墓を用意してないのでそのこともお願いします(負担のないよう、小さなお墓にしてください)。
□□の嫁の◎◎さんには語り尽せないくらいお世話になりました。本当にありがとうございます。何も遺してあげられないのにまことに心苦しいですが、妻のこと、今後もよろしくお願いいたします。

 

少し先のことになりますが、妻が亡くなった時、この家は引き続き長男□□に相続させたいと思っています。
今回、預金をあなたたちにそれぞれ相続させたので、遺る目ぼしい財産としてはこの家と土地だけになります。
世間ではこんな場合、”争族”が必ず起きると言うようですが、わが家だけはもめないようにしてください。
長い間一緒に暮らしてきた長男一家にそのまま引き継いでもらいたい、というのが私の願いであり、妻の願いでもあります。

 

以上、わがままなお願いばかりとなりましたが、どうか聞き届けて、私の親しい人たちが今後とも仲良く交流できるようにしてください。

 

平成○○年○○月○○日                  
○○県○○市○○区○○町○丁目○番○号       
遺言者  A 

 

 

■嫁に出た娘にも気配り

この遺言書の場合、遺言として法律上の効果が生じる「法定遺言事項」は1~5の番号を打った5行のみです。
その他の文章はすべて「付言事項」ということになります。

 

「付言」なしでこの遺言書を長女と次男が読んだとしたらどうだったでしょう。
お母さんのことはともかくとして、「同居している長男夫婦が得をしている」と感じたのではないでしょうか。
特に長女はきょうだいの中では最年長ですから、自尊心が傷ついたかもしれません。
そのため「5項」で長男を祭祀主催者にあえて指名し、多めに貯金を相続させる理由としました。

 

嫁に出た長女の立場は微妙です。
他家に嫁いだ場合、「お嫁さん」は法定相続人にはなりません。カヤの外です。
一方、A家のお嫁さんである◎◎さんも、「私こそ義父や義母の面倒をみている」という意識がある場合、相続の”権利者”になれない立場は微妙と言うほかありません。
微妙な立場同士の”ふたりの嫁”が相続の”かき回し役”を演じてしまうことは、よくあることです。

 

その点に気を使ってAさんの遺言状の表現は、どちらに対しても奥歯にものが挟まったようなもどかしさがにじみ出ているような気がします。
実際に書く場合は、娘とお嫁さんに対しては十分に気を回してお書きください。

 

■「遺留分」はクリアした上で付言を書く

従来は、夫が亡くなったときの1次相続では、(相続税における配偶者の優遇策の効果もあって)妻に全財産を相続させることがよくありました。
それは今でも多いわけですが最近は、母と子たちが相続分をめぐって争うケースも増えてきています。子の側の「権利意識」が強くなっているという背景があります。
その点について、A家は大丈夫なのでしょうか。実際に計算してみましょう。

 

Aさんの正味の財産総額は、死亡保険金の額を加えて4600万円です。
生命保険の死亡保険金は相続財産ではなく「個人の財産」になるので総額から1000万円を差し引きます。
したがってこの相続の「課税遺産総額」は3600万円ということになります。
各法定相続人の法定相続分は
母 1800万円
長女、長男、次男 各600万円
遺留分は、母900万円、子は各300万円

 

長女と次男は遺留分を超える400万円ずつを相続しているので、「相続分が少ない」と思ったとしても遺留分減殺請求の出しようがありません。
Aさんはそのことを承知のうえで、不満がくすぶらないよう長女を気遣って付言事項を書いているのです。

 

■「付言」の効果は受け止め方次第

付言事項の末尾にAさんは「妻の死後のこと」にまで言及しています。
遺言でそんな先のことまで決められるのでしょうか。
もちろん決められません。
だからAさんが心をくだいて書いたとしても「”実家”を長男のものに」というAさんの希望は、そう述べているだけで法律上の効果はありません。

 

Aさんの妻が亡くなった時に実家の価値が1800万円に下がっているとすると、
法定相続分はきょうだい各600万円、遺留分各300万円です。
長男が実家を単独で相続すれば「1800万円:ゼロ円」ですから、長女と次男は各300万円ずつを長男に対し遺留分減殺請求する権利があります。

 

「付言」には法的な効力は伴いませんから、将来に向けた父親の希望をこの両人が無視することは可能です。
しかしAさんのこの遺言書は功を奏する可能性が高いと思います。
相続させる側の両親の意思が明確なので、お姉さんとしても「嫌だ」とは言いにくいのではないでしょうか。
この点長男夫婦は、今後も長女らと交流を密にして納得しやすい環境を醸成していく必要があります。

 

父親の付言に込めた想いを実現させるには、相続人同士のふだんからのコミュニケーションが大事であることは言うまでもありません。

 

【もう一つの「付言」活用事例】

★お母さんに遺留分なんか請求するな!自筆遺言でまっすぐ伝える。「妻に全財産」を通すもう一つの方法

2016.05.25

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ジャーナリスト石川秀樹相続指南処行政書士

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