★相続税は”酷税”⁉──焦った対策、ケガの元。課税対象かなり縮減されます!

「相続税は酷税か

 

相続税額を計算するには、3つの数字の意味を知っておかなければなりません。
相続税がかかる財産」「正味の遺産額」、それに「課税遺産総額」です。
相続では、「うちの財産は1億円」などと”遺産額”が話題にされますが、実際に相続税の課税対象となる金額はそれよりずっと少ないことが普通です。
漠然と大きな数字で考え、慌てて相続税対策に走るとピント外れで危険度の高い”対策”に手を出しかねません。
まずは3つの数字の意味を理解しましょう。

 

■金銭に換算できるプラスの財産

◆相続税がかかる財産

まず「相続税がかかる財産」です。
これには、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など、金銭に見積もることができる財産はすべて含まれます。
ただし、借金、、債務、未払金などのマイナス財産は含まれません。
イラストを見てみましょう────

 

「正味の遺産額」とは何か

いわゆる「遺産」と税務当局が考える「正味の遺産額」とはまったく別物です

イラストで黄色の円柱内に書いた項目は広義の遺産ではありますが、「相続税がかかる財産」ではありません。
相続税の対象としてはまず、マイナスの財産が除外されます。
続いて「葬式費用」や「祭祀財産」も外します。

 

一方、オレンジ色の「広義の遺産」からあえて外して描いた財産があります。
相続時精算課税による贈与」と「相続開始前3年以内の贈与」。
いわゆる生前贈与ですね。
生前贈与のうち、この2つは「相続税がかかる財産」に戻されてしまいます。

 

「相続時精算課税」は名前の通り、贈与した時には贈与税をかけず相続の時に相続税として課すという贈与方式です。最終的に「遺産」の中に戻されるので贈与の意味がなさそうですが、早めに2500万円まで子や孫にあげることができるので、賃貸マンションなど”果実”を生む財産を贈る場合には有利になります。しかし当初から相続税で精算する約束ですから、戻されてもいた仕方ありません。

 

一方、「相続開始前3年以内の贈与」は戻されてしまうとキツイですね。
暦年課税」を使えば年間110万円までは贈与税ゼロなので、これを利用して子や孫に生前贈与をする人はとても多いです。
しかし相続発生前3年間の贈与はいわば”駆け込み贈与”で、税務上は「なかったことに」されてしまいます。
死期を悟って慌ててする贈与は「相続税逃れのための贈与」であり、認めない──というのが税務当局の姿勢。

 

■生命保険には「控除」の特典がある!

かなり意地悪・・・・・。
ところが、「生命保険」と「死亡退職金」では粋な計らいも見せます。
生命保険の死亡保険金は「遺産」とはされません。
あくまで保険金を受け取った個人の財産とみなされます。
しかし、税務上は遺産に組み込み相続税課税の対象にします。
(この点が生命保険という商品の特殊性なのですが、相続対策ではこの特殊な性質をよく利用します)

 

在職中に亡くなった時に支給される「死亡退職金」も同様です。
死亡したことにより支給される退職金は遺族の個人財産ですが、税務上は相続税の課税対象になります。

 

ところが税務当局はここで意外な”温情⁉”を見せます。
相続税の対象とはするものの、法定相続人1人当たり「500万円」を基礎控除していいというのです。
保険金や退職金が2000万円でも、法定相続人が3人いれば1500万円を控除し、計上する金額は500万円でOK。
相続税の基礎控除額はご存知のように「3000万円+法定相続人1人当たり600万円」ですから、「1人500万円の控除」は大盤振る舞いと言っていいでしょう。

 

■マイナスの財産は外す

◆正味の遺産額

以上で、「正味の遺産額」に登場する項目が出そろいました。
以下の項目の金額をすべて足し算します。

  1. 金銭に換算できるプラスの財産すべて
  2. 相続時精算課税による贈与
  3. 相続開始前3年以内の贈与
  4. 生命保険の死亡保険金+死亡退職金
  5. (マイナスする財産)借金・債務・未払金
  6. (マイナスする財産)葬式費用・祭祀財産

 

「正味の遺産額」を考える場合、もう1点、注意が必要です。
これらの財産価値(価額)はふだん私たちが認識している「値段」とは相当に開きがあるということです。
現金や預貯金は額面金額が「価値」そのものですから何の問題もありませんが、例えば「不動産」などはやっかいです。

 

■税務上の不動産価値は大幅割引

不動産は1物4価とも5価とも言われます。
「価格」と名が付くだけでも4、5種類。
①実勢価格、②地価公示価格、③相続税評価額(路線価方式と倍率方式がある)、④固定資産税評価額──などと言った具合。
何を基準にしたらよいのか素人にはさっぱりわかりません。

 

私たちにわかりやすいのは実勢価格ですが、チラシなどに書かれているのは「買い値」。
売る場合には、同じ物件なのに5掛け、6掛けになったりします。
そこで自分の財産を大まかに知りたい場合、土地については「路線価」を参考にすることが多いようです。
ザックリ言って時価の8掛け程度の数字になります(ただし地形など土地の立地によって評価は大きく変わります)。
家の評価は市町村から毎年送られてくる「固定資産税課税標準額」の金額が目安になります。
築20年、30年にもなると、価値は驚くほど下がっているものです。

 

この話は他の財産にも通じます。
ゴルフ会員権は実勢価格の7割引き、車は新車価格から減価償却分を差し引いた金額・・・・など、財産により税務上の評価法はさまざまです。
だから財産の的確な評価はプロでも難事ですが、いずれにしても法外な金額が課されることはありません。
興味がある方は、国税庁の「財産評価基本通達」をご覧ください(不動産や株式、債権等など膨大な資料ですが・・・・)。

 

■相続税には2大特例がある!

価額に関してはもう一つ、重大なことを書かなければなりません。
「特例」があるということです。
価額を下げる特例です(税務署の肩を持つわけではありませんが、かなりの特典を設けています)。
先ほど、生命保険と死亡退職金では「相続人1人当たり500万円」の控除があると書いたのもそのひとつ。

 

特例の中で最も大きいのは「配偶者の税額軽減の特例」。
これは、①配偶者が相続する場合は1億6000万円までは無条件で非課税、または②配偶者の法定相続分相当額までは非課税(100億円の課税遺産だったら50億円相続しても非課税)──という大特典です。
しかしこの特例は個々の相続財産ではなく、次に書く「課税遺産総額」をひとまとめで非課税にするという話なので、いずれ別項で書くことにします。

 

もうひとつ大きな特例は「小規模宅地の特例」と言われるものです。
細かい条件があるものの、ごく簡潔に言うと①配偶者や同居親族が住んでいた家の宅地は330平方㍍まで8割引き、②亡くなった人が事業用に使っていた土地は400平方㍍まで80%引き(貸し付けよう、例えばアパート経営などの場合は200平方㍍まで50%引き)──で評価されます。

 

ちょっとわかりにくいと思いますが、1000万円の価値がある宅地でも「正味の遺産額」に組み入れるときには「200万円」の価値として計上できるということです。
ですから「遺産が多すぎる。これでは相続税がかかってしまうよ」と思われる場合でも、冷静に財産をカウントしてみましょう。かなり価額が圧縮できるかもしれません。

 

■正味の遺産額から基礎控除額を引く

◆課税遺産総額

 

正味の遺産額と課税遺産総額

正味の遺産額から基礎控除額を引いた「課税遺産総額」こそが相続税課税の基準価額になります

 

ようやく「課税遺産総額」までたどり着きました。
これまで説明してきたのは「正味の遺産額」。
そこから相続税の「基礎控除額」を差し引いた金額が「課税遺産総額」です。
この金額が相続税算定の基礎数字になります。

 

「今年から相続税の基礎控除額が4割も削減された。相続税を払わなければならない人が1.5倍になる。いや倍増するだろう」とだいぶ話題になりましたから、「基礎控除額」についてはご存知の人が多いでしょう。いよいよこれを使う時がきました。
現在の基礎控除額は、「3000万円+600万円✕法定相続人の数」です。
一般的な家庭で、夫が亡くなり妻と子2人が残った時の基礎控除額は
「3000万円+600万円×3=4800万円」です。

 

課税遺産総額」=「正味の遺産額」―「基礎控除額

 

上の式をあてはめて「課税遺産総額」を出しましょう。
正味の遺産額は1億円。
基礎控除額は法定相続人が3人だから4800万円。
すると「課税遺産総額」は
[1億円―4800万円]ですから5200万円ということになります。

 

■正味1億円、相続税は314万円!

相続税の計算では、いったんこの金額を法定相続分で分割したことにします。
法定相続分は妻1/2、子がそれぞれ1/4。

妻  2600万円
子1 1300万円
子2 1300万円

次にこの金額を相続したとして、それぞれの相続税額を算出します。

 

用いる速算表はこれ。

相続税速算表

 

妻  [2600万円✕0.15―50万円]ですから340万円
子1 [1300万円✕0.15―50万円]で145万円(子2も同額)
するとこの家の相続税の計算は[340万円+145万円+145万円=630万円]

 

理論上、これがこの家の相続税の総額ですが、相続人ごとの条件による差が出ないよう「相続税の総額(630万円)」を相続人の実際の取り分ごとにあらためて按分します。

妻  315万円
子1 157万円
子2 157万円

ところが妻には「配偶者の税額軽減」の特例」が適用されますから相続税はゼロ円。
子1、2の税額を合わせ314万円がこの家の、今回の相続にかかる相続税額ということになります。

 

■正味1億は「2億円」並みかも

長々と説明してきました。
最終的に何が言いたかったか、おわかりですか?
正味の遺産額が1億円ある家庭」は中の上(アッパーミドル)というより、もう資産家に近いのではないでしょうか。
上記の家庭は法定相続人が3人います。

 

財産の内訳を省略しましたが実際はこうです。

  • 家 4000万円
  • 宅地 2000万円 → 実際の価値は1億円
  • 預貯金 3500万円
  • 生命保険 500万円 → 実際の掛け金は2000万円

 

家は豪邸です。「固定資産税課税標準額」でこの価格ですから。
宅地は「小規模宅地の特例」で8割引きで2000万円、実際は1億円。
生命保険は「非課税枠500万円×3」を使ったから実際は2000万円。
すべてを合計すると実際には1億9500万円の遺産だったといってもいいでしょう。

 

でも実際に払った相続税は子2人合わせて314万円にすぎません。
約2億円の相続に対して実効税率は1.57%!
相続税の速算表を見れば「2億円以下」の税率は40%。
「8000万円も持っていかれる」と恐れ相続税対策に大わらわとなる人が多いのでは?

 

私は「相続税」はサラリーマンに課す場合、完全なる「二重課税だ」と思っていますから(サラリーマンは100%源泉徴収され税金をすでに払っていますから!)税務当局の肩を持つ気はありません。でも公平に言えば、ふつうにルールの枠内で対応していれば、相続税の負担は「耐えられる範囲」に納まっていると思うのです。
慌てふためいて無茶な”相続税対策⁉”をする必要は、まったくありません。

 

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石川 秀樹

遺言、相続対策と家族信託の専門家です。特に最近は家族や事業を守るための民事信託への関心を強めています。遺言書や成年後見といった「民法」の法律体系の下では解決できない事案を、信託を使えば答えを導き出すことができるからです。
40年間、ジャーナリストでした。去る人、承継する人の想いがよりよくかみ合うようにお手伝いしていきます。

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石川秀樹

1950年生。ジャーナリストです。相続対策家(行政書士)。小さな出版社の社長でもあります。何を書いてもユニーク。考え方がまともなだけなんですが。このブログは遺言相続、家族信託、それと老後のあれこれについてが中心。

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