★正味の遺産額とは──実際の財産額を大幅に圧縮→相続税はかなり”おまけ”される!

「正味の遺産額を知ろう

 

「相続税」が高いと思っている人は多いと思います。
実際に相続税を計算する際の基準になる「正味の遺産額」は、頭に思い浮かべている「遺産」よりだいぶ圧縮されます。それゆえ実際の相続税額は、「相続税率は数十%」という思い込みよりずっと軽いです。相続税対策をするなら、本当の負担額を知るのが先決。聞きかじりで対策するのは厳に避けてください。危険すぎます。

 

■生保、死亡退職金に特典

実際に相続税がかかる遺産額」からご説明しましょう。
国税庁のホームページに、こんな「図解」が載っています。

 

相続税がかかる遺産とは何か

「相続税」に関連するさまざまな”遺産額”が載っています(国税庁提供、カラーの太枠は筆者)

 

オレンジ色の枠で囲った「遺産総額」が、普通に私たちが「遺産」としてイメージしている財産です。
でもこれは税務上は「遺産」のすべてではないようです。
相続税を課す場合には生前に子や孫などに贈与した一部の金額も「遺産」とみなされます。
まず「相続時精算課税」を使ってした贈与が「遺産」に戻されます。

 

この財産(1)から、マイナスの財産(借金・債務・未払い金等)が除かれ、さらに「葬式費用」も引かれます(2)。
それに「非課税の財産」も課税対象から外されます。
「非課税財産」とは────(国税庁の説明)

  • 墓所、仏壇、祭具など
  • 国や地方公共団体、特定の公益法人に寄附した財産
  • 生命保険金のうち次の額まで 
    500万円×法定相続人の数
  • 死亡退職金のうち次の額まで
    500万円×法定相続人の数

 

■駆け込み生前贈与はダメッ!

これで「相続税に使う遺産」の大枠が明らかになりました。
(2)は「非課税」にしてくれるいわば”おまけ”の分でしたが、「その節税、ダメです!!」というものもあります。
亡くなった日から数えて3年以内に「被相続人から推定相続人に贈与された金額」は遺産に戻され(3)、相続税の課税対象になります(払った贈与税は返されます)。
駆け込み生前贈与を税務当局は認めません(もっとも、子ではなく孫に贈与した分は3年以内でもセーフです。孫は相続人ではありませんから)。

 

この遺産に持ち戻された分を加えた金額が「正味の遺産額」になります。
この数字を正確にとらえないと、正しい相続税額を計算できません。
最も重要な数字と言っていいでしょう。

 

さて、ここまでの財産をすべて押さえて初めて「基礎控除額」が意味を持ちます。

基礎控除額=3000万円+600万円✕法定相続人の数

 

 

正味の遺産額から基礎控除額を差し引いた金額が「課税遺産総額」です。
この金額が税務上、相続税を計算するために直接引用する数字になります。
「相続税の計算法」はやや複雑なので、あらためて解説ブログを書きます。
きょうのところは「計算方法」を知るよりもっと重要な以下の注意点にご注目ください。

 

■配偶者には”巨大な”特典る!!

相続税に使う数字の基本になるのが「正味の遺産額」です。
被相続人が生前に持っていた財産が「正味の遺産額」として計上されたり外れたりする、というのがこれまでの説明です。

 

正味の遺産額」ではもう一つ、重要なポイントがあります。
計上する財産の価値そのものを大幅に縮減して評価することがある!、ということです。
代表的な例は「宅地」。
小規模宅地の特例]が適用される土地については、居住用宅地なら80%(330㎡まで)、事業用に使っていた宅地なら80%減額(400㎡まで)。貸付地としていた宅地は50%減額(200㎡まで)。
時価1億円の宅地を2000万円、5000万円として「正味の遺産額」に計上できるわけです。
これはとてつもない税制上の恩典です。

 

現金や預貯金は税務上100%の金額で計上せざるを得ません。
しかし不動産には小規模宅地の特例はじめいくつかの控除方法があるため、相続税算定の基礎となる数字(正味の遺産額)そのものを大幅に圧縮できます。
だから現金をあえて流動性の低い、使いにくく分けにくい不動産という”財産”に換えるという「節税法」が存在するわけです

 

正味の遺産額」に計上する財産は、不動産以外でも価値を減額できるものがあります。
生命保険の死亡保険金や死亡退職金は受取人が相続人であった場合、[法定相続人数✕500万円]を実際の額から引いて計上できます。
このほかクルマは減価償却額で、ゴルフ会員権は相場の70%でなど、それぞれ財産ごとに評価法が異なります。

 

相続で最も大きな特典は何と言っても[配偶者の税額軽減の特例]です。
これは個々の財産についておまけするというより、正味の遺産額そのものに”投網”をかけます。そして
①正味の遺産額が1億6千万円までか
②配偶者の法定相続分相当額(つまり正味の遺産額の1/2)までか、
どちらか大きい方の金額までは相続税がかからない──という大特典がです。
正味の遺産額が100億円でも、配偶者が相続すれば50億円までは「相続税ゼロ」というわけ!

 

■2億円遺産でも実効税率1ケタ!

正味の遺産額に計上する財産の特殊な価値評価法と「配偶者の税額軽減の特例」により、相続税の実効税率は大幅に下がります。
論より証拠。国税庁のホームページはこんな試算をイラスト化しています。

 

正味の遺産2億円の相続税額

(国税庁のホームページから)

 

 

妻と子2人が正味の遺産額2億円を相続するというシミュレーションです。
この遺産にマイホームの宅地が含まれていれば8割引きの価額で計上しているわけで、実際の遺産は3億円を超えているかもしれません(宅地の評価額が2000万円だとしたら実際の価値は1億円ですから)。
でも相続税は、妻ゼロ円、子は2人合わせて1350万円にすぎません。

 

「相続税速算表」を見てみましょう。

相続税速算表(赤枠)

 

正味の遺産額「2億円―3億円以下」の相続税率は(控除額が1700万円―2700万円あるものの)40%―45%。
でも実際に払う税額は1350万円。
2億円に対して実効税率は6.75%、3億円に対してなら4.5%。

 

■手の込んだ節税策は無用

「4割、5割近く相続税に持っていかれてしまう !!」と青ざめて、無謀な、誤った相続税対策をゼッタイにとらないでください。
何もしなくても、1次相続でかかる相続税はこの程度です(妻は1億円分相続して税はゼロ円、子は5000万円ずつ相続して各675万円)。
もちろん配偶者のいない2次相続では、相続税はもっとキツくなります。
でもこんな数字ですよ。

 

お母さんが1億円を相続し健やかに老後を過ごし、1円も財産を減らさなかったと仮定して、兄弟2人で770万円の税金です。
1次相続から2次相続までは平均15年。
お母さんは老後資金として相続財産を使い、残りの財産に掛かる税額はもっと軽減されるでしょう。

 

また、お母さんが兄弟2人を受取人とする1000万円の生命保険に入っていれば(1人500万円の控除がありますから)相続税額は620万円に下がります。

正味の遺産額1億円、基礎控除額4200万円
生命保険の死亡保険金 1000万円(兄弟に500万円ずつ)
生命保険の非課税枠 500万円✕2=1000万円
この金額を正味の遺産額から消すことができるわけです。
正味の遺産額9000万円に対する相続税は2人で620万円。

 

2人が受け取る金額は各5000万円と変わらないのに、相続税は150万円の割引となります。
実効税率6.2%。1次相続より安上がりになります!

 

最後に生命保険を使うという”広く知られた節税策”を引き合いに出しましたが、正味の遺産額3億円程度までなら、不動産を使う手の込んだ、管理もめんどくさい(そしてビジネスセンスも要求される)節税策を行う必要はまったくないでしょう。
ただ普通に相続すれば、”争族”を起こしたり”相続税破産”するような事故は防げるはずです。
正味の遺産額とは何か」をしっかり理解して、賢い相続税対策をしましょう。

 

◇「正味の遺産額」が理解できれば相続税の計算ができます。
ザッと税額が知りたい場合は、コチラ↓が便利です。

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石川 秀樹

遺言、相続対策と家族信託の専門家です。特に最近は家族や事業を守るための民事信託への関心を強めています。遺言書や成年後見といった「民法」の法律体系の下では解決できない事案を、信託を使えば答えを導き出すことができるからです。
40年間、ジャーナリストでした。去る人、承継する人の想いがよりよくかみ合うようにお手伝いしていきます。

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石川秀樹

1950年生。ジャーナリストです。相続対策家(行政書士)。小さな出版社の社長でもあります。何を書いてもユニーク。考え方がまともなだけなんですが。このブログは遺言相続、家族信託、それと老後のあれこれについてが中心。

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