★実家の相続には「生命保険」と「遺言書」を使え!遺留分減らし代償金ゼロに らくらく文例4

実家を相続するなら保険を使え

 

普通のお宅の相続第2弾。
今回は同居している長男に「実家」を1円の負担もなしに相続させるのがテーマです。
2次相続の例であり、主に「生命保険」を活用します。

 

■遺言書は遺留分を顕在化させる

状況は前回と同じです。お母さんAが亡くなり、法定相続人は長男B、次男C、長女Dの3人。Bは父親が亡くなった1次相続の後、実家に家族とともに引っ越し3世代同居を始めました。
家は老朽化し相続財産は▼家50万円、▼土地850万円、▼貯金300万円の計1200万円。貯金は1次相続のときに母が相続したものですが、Bが家計を支えたため手付かずで残りました。
前回はこんな状況でした───

 

実家の相続1落胆B

目ぼしい財産が「実家」だけ、という相続は非常に難しい。肩を落とす兄のB

 

何も対策を講じていなかったので、いざ相続となった時に弟妹から法定相続分(各400万円)を主張され、Bは実家(900万円)を相続するため代償金として250万円ずつを弟妹に払わざるを得なかった、というのが上の図解です。
同居しているBにとっては完全に思惑外れのつらい相続となりました。
こういう事態を防ぐために母親が遺言を書いてさえいれば「遺留分」が顕在化して、Bの持ち出しは計100万円だけで済んだはず(母親の「遺留分を請求しないで」の願いを弟妹が受け止めれば、Bの負担はゼロ円になった可能性も)というのが前回の結論でした。

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■保険は相続税の対象だが相続財産に非ず

さて今回は、遺言書生命保険の活用でBの負担をゼロにするというお話です。
この対策のキモは「預金300万円を母親の死亡保険金に換える」ということ。
保険金受取人を弟妹のC、Dではなく、あえて長男のBにするという点も重要です。

 

そのうえで以下のような遺言をAが書いておくといいでしょう。

 

遺言書

私の財産である家と宅地を長男Bに相続させる。

私の目ぼしい財産は、ほかには□□生命の生命保険しかありません。受取人はBなので、Bはきょうだいでもめることがないようこの保険を活用してください。

CとDへ。お父さんが建ててくれた現在の家はあなたたちの実家です。きょうだいに平等に相続させたいとは思いますが、家は分けられない財産なので、同居しているBを祭祀継承者に指名し「家」を遺すことにしました。不満があるとは思いますが、私の思いを汲んできょうだい仲良く生きていってください。

平成○○年○○月○○日                  
○○県○○市○○区○○町○丁目○番○号       
遺言者  A 

 

 

財産を、家(900万円)は長男Bに、貯金(300万円)はC、Dで折半という形で相続させると、前回解説したように、相続人間に著しい不均衡が生じてしまいます(B:C:D=900:150:150)。
預金を保険に換えたところで「数字は変わらないじゃないか」といわれそうですが、相続財産の額が違ってきます。
「保険」は実に奇妙な性質を持った財産なのです。

 

<保険の特徴>

  1. 相続税の課税遺産に該当する
  2. しかし相続財産には含めない

 

意味がわかりますか?
「1.」保険は相続税の課税対象になりますよ、しかし「2.」保険は相続財産ではなく、あくまで保険金を受け取った個人の財産となるので、遺産分割協議の対象にはなりません──という意味です。
したがってこのお宅の「相続財産」は実家のみ900万円となります。1200万円から900万円に減ったのです。これが「保険は相続財産額を減らす」という価値です。
その結果、法定相続分は各300万円(900万円÷3人)、遺留分は各150万円ということになりました。
図解するとこんな感じになります。

 

実家の相続3「やったね!」

生命保険を使うと相続財産を減少させる効果があり、遺留分も下がることになります

 

Bは母の死亡保険金として受け取った300万円をCとDに150万円ずつ支払えば、彼らの遺留分を満たすことになります。
Aの遺言「この保険を活用してください」の意味は、こういうことだったのです。

 

■誰を保険の受取人にするかがキモ

母親の心情としては、Bに家を相続させる以上、預金300万円を生命保険に換えるとはいえ「受取人はCとDにしたい」というのが本音だったと思います。
しかし、その結果はこういうことになってしまいます。
預金を保険に切り替えたことにより▼相続財産は900万円、ゆえに▼法定相続分は各300万円、▼遺留分各150万円というのは上と状況は変わりません。しかし保険金の受取人を「CとDで2分の1ずつ」とすると、保険金は150万円ずつC、Dに入ります。この現金の性質はなんですか? 個人の財産ですよね。

 

保険金は相続とは関係のない個人へのプレゼントということになります。ですから、C、Dには依然として150万円ずつの遺留分が残ります。2人は保険金とは別に、Bに150万円ずつ遺留分減殺請求することができます。母の温情はBにとっては、計300万円も自腹を切らなければならないというつらい負担になってしまいます。それでもまあ、前回のように500万円も払うという状況よりはマシですが。

 

これを防ぐためにAは「保険金をあげるのだから遺留分請求はしないで」と遺言に書くのだと思いますが、遺留分請求ができることを知ったC、Dはかえって怒りの感情を燃え立たせるかもしれません。
だから今回ははじめから保険金受取人をBにして、遺留分云々を書かなくても済むような状況にしたかったわけです。

 

■代償分割には「保険」が有効手段

長男以外の方がこの記事を読むと、「長男ばかりに肩入れして」と不愉快になるかもしれません。それも無理はありません。現在は「長子相続」の時代ではありません。兄弟姉妹は平等の「均分相続」が法律で認められている時代ですから。
分けられない財産「実家」を分ける方法は4つあります。

  1. 現物分割
  2. 共有分割
  3. 換価分割
  4. 代償分割

現物分割はちょっと現実的ではありませんね。「共有分割」はもめている場合によく行われます。家と土地、それぞれの持ち分を兄弟姉妹で共有するやり方。もめごとが一時棚上げされるだけで後々混乱します。不動産を売ってしまうという「換価分割」は公平に分けるためにはよい方法ですが、実際にはいろいろな問題が出てきます。そして「代償分割」。不動産を相続した相続人に代償金を出す余力がある場合はベストな分割方法で少。しかし、お読みいただいているように問題含みです。

 

どの分け方にも一長一短がありますから、もめずに相続させるには遺す人の意思がブレないことが何より肝心です。
「長男も少しは負担すべきだ」と思うなら、貯金をC、Dに相続させ遺留分を長男が補てんするように導くのも選択肢なのかもしれません。その場合のBの負担は100万円です。
今回、あえて生命保険を使うこの方法を例示したのは、不動産がもっと高額な場合、実際に代償金を支払う側にはかなり重い負担になることがありありと予想されるからです。

 

次回は「もめるくらいなら実家を売ってしまおう」という遺言書について解説します。

 

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ジャーナリスト石川秀樹相続指南処行政書士

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石川 秀樹

遺言、相続対策と家族信託の専門家です。特に最近は家族や事業を守るための民事信託への関心を強めています。遺言書や成年後見といった「民法」の法律体系の下では解決できない事案を、信託を使えば答えを導き出すことができるからです。
40年間、ジャーナリストでした。去る人、承継する人の想いがよりよくかみ合うようにお手伝いしていきます。

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1950年生。ジャーナリストです。相続対策家(行政書士)。小さな出版社の社長でもあります。何を書いてもユニーク。考え方がまともなだけなんですが。このブログは遺言相続、家族信託、それと老後のあれこれについてが中心。

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