★2次相続の知恵 主張のぶつけ合いではなく、相手の事情もくむ!

兄弟間の相続「そんなに奪い合いたい?」

 

相続でもめるというと「資産家の父親が亡くなって一族騒然・・・・」といったイメージを抱きやすいですが、普通のお宅でもめるのは二次相続の時です。
父親が亡くなった一次相続では、「とりあえずお母さんに全部相続してもらおう」と、いったん棚上げ。ですが、そのお母さんが亡くなると争族が本番となってしまう!
これが普通です。生きていればなだめ役になってくれた親はもういませんから。
だからこそ、二次相続でこそ家族の”知恵”が試されることになります!

 

■兄弟姉妹間の典型的な争い

オール相続」というサイトの「お悩み相談室」に格好の質問があったので回答しました。
きょうだい間の遺産相続、母の遺言書を持っているという長兄との対立です。

 

兄弟間の遺産相続についてc

 

私は一定の条件を付けて、以下のように回答しました。

 

遺産は土地だけ、その市場価値は5000万円である、
母親の自筆遺言書があり、それは真正である、
遺言の内容は「長男に全財産を相続させる」──という前提でお答えします。

 

長男は単独で唯一の財産であるご実家の土地を登記し、所有権を主張できます。
つまりお母様の生前に兄弟姉妹5人で取り交わした約束には法的な拘束力はありません。
以上が筋論です。

 

ではきょうだいは何もできないのか? 
そんなことはありません。
ここからは今回の相続を”交渉事”として考えてみましょう。
きょうだいは兄の強引な進め方には反対している、という前提で考えると、対抗手段として浮かぶのは「遺留分減殺請求」です。

 

遺留分減殺請求は、遺言などで自分の相続分が著しく法定相続分より低く抑えられたときに「足りない分を返せ」と主張できる法定相続人の権利です。これにより法定相続分の半分を取り戻すことができます。

 

きょうだいは5人。
相続財産は5000万円相当。
法定相続分は各1000万円。
従って今回の遺留分は各500万円です。
500万円✕4人=2000万円 
減殺請求されるとお兄さんは、この金額をきょうだいに支払わなければなりません。

 

これはお兄さんにとって得なのか、損なのか。
”交渉事”といったのはソコです。
遺言書には法的拘束力があるので、確かに強い。
権利を主張すれば遺言内容を実現できる。
しかし一方、法定相続分を侵害されたきょうだい側にも対抗手段があって、反撃を覚悟しなければならない。

 

このまま行くと絵に描いたような”争族”になります。
なぜ生前にきょうだいで話し合われたのでしょう。
お兄さんはなぜ急にお母さんの遺言書を持ち出したのでしょう。
それぞれに事情がありそうですね。

 

遺言書は実は100%ゼッタイなものではなく、相続人の全員一致があれば「遺言書で指定された分け方」を変えることもできるのです。
ですからここはお兄さんに結論を急がせず、初心に戻って「きょうだいでもう一度話し合おうよ」と提案されてはどうでしょう。

 

あなたたちは遺留分減殺請求という切り札を持っています。
これは絶対的な請求権なので、行使されれば困るのはお兄さんです。
そういう結末はもう分かっているのです。
お兄さんにそのことを分かってもらった上で、あなたもぜひ、お兄さんの事情をじっくり聴いてみてください。
そうすれば「問答無用」とはならず、よい結論が出せるのでは?

 

■遺留分減殺請求はビミョーな権利

私が言いたかったのは、最後の2行です。
遺言で”不当な差別”を受けた法定相続人(第3順位者は除く)には、遺留分減殺請求という”最低保障”の権利があります。
ただし、遺留分を取り戻す権利は「行使しなければ権利にはならない」という権利です。
「不当だ。返してくれ」と請求しない限り、遺言はそのまま効力を発揮します。

 

『おもしろい権利だなぁ』と思うんです。
被相続人の配偶者と子、親には権利を認めているのに、第3順位の被相続人の兄弟姉妹には認めないというのも絶妙なさじ加減だと思います。
民法の真意は、「当事者同士で知恵を働かせて解決してくださいよ」
法は暗黙の裡(うち)に当事者間の妥協を求めているように思えるのです。

 

減殺請求を行使するのは簡単ですが、ひとたび行使すれば相続人の間にわだかまりが生じるのは必定。
素直に返す人はあまりいないので裁判にもなりやすい。
せっかくの親の遺産、そもそも相続人が自分で生み出したのでもない”不労所得”をめぐって血縁的に近い者たち同士が争うなんて、親としては見たくもない光景でしょう。
だからこそ民法は遺留分減殺請求権を”ビミョーな権利”としているわけです。

 

■相続人は何に貢献したのか

回答するにあたって私は条件を付けています。
本来、母と兄で2000万円ずつ相続できた4000万円はどこに消えたのでしょう。
お母さんが『遺してもきょうだいが争うだけだから』と、生前に使い切ったのでしょうか? だとしたら見事ですね!
それともお兄さんが『遺してもきょうだいたちに取られるから』と使っちゃたのでしょうか?
あるいは母が介護状態となり、療養看護費用が重なって消えてしまったのでしょうか?
その際、お兄さんが(あるいはお嫁さんも)同居していて、母の世話を献身的に行ったのでしょうか?
それとも別居していて、兄もまた知らぬ顔をしていた?

 

そういうことこそ、相続を考える上で考慮すべき項目であると私は考えます。
なんと言っても不労所得なんですから、親の恩に報い、努力した者こそが多くを得るべきです。

 

■相手の事情をくむ度量あってこそ!

もうひとつ論点があります。
遺言書は本物か、ということです。
兄はさっさと家庭裁判所に行って検認してもらうべきなのに、なぜそうしないのでしょう?
この質問者の言にも『兄が遺言書を母に書かせたのではないか?』という疑念があるように感じられます。

 

すると今度は、遺留分減殺請求ではなく、遺言の効力をめぐる争いになるかもしれません。
最悪の争族ですね。
だから私は、兄は一点なんの曇りもない真正な権利者であると主張し続けるより、ある程度他の兄弟姉妹の主張に妥協した方がいいと思いましたし、
また兄弟姉妹たちには、兄にくむべき事情があるなら(例えばこの兄夫婦だけが母の世話を懸命に行った、など)それは認め、兄に多くを与え、自分たちの取り分は抑えるような理性を働かせてもらいたい、と思ったのです。

 

得られるおカネの多寡だけを争えば、勝つにしろ負けるにしろ心は荒野です。
法律はそれを望んでいません。
当事者たちが知恵を働かせて先立った人の想いをくみ、財産を円満に引き継ぐこと。
それが親亡き後の2次相続を無事に乗り切る知恵であるし、それこそが法が求めている精神ではないかと思うのですが、みなさんはどのようにお考えですか?

 

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石川 秀樹

遺言、相続対策と家族信託の専門家です。特に最近は家族や事業を守るための民事信託への関心を強めています。遺言書や成年後見といった「民法」の法律体系の下では解決できない事案を、信託を使えば答えを導き出すことができるからです。
40年間、ジャーナリストでした。去る人、承継する人の想いがよりよくかみ合うようにお手伝いしていきます。

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石川秀樹

1950年生。ジャーナリストです。相続対策家(行政書士)。小さな出版社の社長でもあります。何を書いてもユニーク。考え方がまともなだけなんですが。このブログは遺言相続、家族信託、それと老後のあれこれについてが中心。

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