★「実家」の相続はなぜもめるのか──「遺産争族」はあなたの家で起きる ! ! 

「実家の相続はなぜもめるのか

 

遺産争族はあなたの家で起きます!
10億円も20億円もある資産家だから起きるわけではないのです。
なぜ起きるかって?
分ける財産がない、それなのに何の準備もしていないからです。
遺産争族は真剣に考えれば防げるのに、まことに残念な状況というほかありません。

 

■遺産争族、4件に3件はふつうのお宅で

先日、テレビ朝日系木曜夜9時のドラマ『遺産争続』の話を書きました。

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創業家で遺産紛争が起きると、小さいけれど優良な業績を上げてきた会社も、そんなつまらない原因で消し飛んでしまいます。
だから資産家が”会社存続”のために相続対策を行うのは当たり前で、対策をせずに混乱すれば嗤(わら)われるだけです。

 

ところが今さらそんなドラマが登場し、「いかにも時流だね」と話題になるとしたら、「それは違うんじゃないか?」と私は言いたくなるんです。
困るんですよ、「遺産争族=一部の金持ちのお宅の話」と思い込まされてしまうのは。
現実はぜんぜん違う! 
争族の99%は遺産の規模「5000万円以下」のふつうのお宅で起きているんですから。
「5000万円だって資産家じゃないか」と言われそうだから、グラフをお見せしましょう。

 

遺産争続はあなたの家で起きる

遺産争族はお金持ちの家じゃない、あなたの家で起きるんです!

 

家庭裁判所が発表している数字です。
「遺産分割」に関して持ち込まれたもめごと、平成25年の数字。
相談件数が17万4,494件。
この年、125万人くらいが亡くなっていますから全相続件数の14%ということになりますね。
「なんと!」という表現を使わせてください。
なんと17万人もが「もらえるお金が少ないから何とかしてくれ」と裁判所に駆け込んでいるんですよ。
あなたは「家庭裁判所」なんて、行ったことがありますか? 
めったに縁のない所です。
そんな所にわざわざ出向いて相談している!

 

「相談」のうち、実際に裁判所が関与する審判や調停を行ったのが1万5,195件。
うち8,951件にケリが付きました。それが<上のグラフ>です。
75%以上が「5000万円以下」の相続で起きています。
つまり決着した相談のうち「4件に3件」は相続税を払う必要がない”ふつうのお宅”で起きているのです。
さらに「75%」の内訳をみると「1000万円以下の紛争」が2,894件で、全紛争中の3分の1。
数百万円の争い!
それでも裁判所(家庭裁判所だとは言え)に関与してもらっているんです。

 

■”争族”になる理由は3つある

40年間もサラリーマンをやってきた私にはわかります。
ふつうのサラリーマンにとって数百万円を得るか得られないか、あるいは数百万円単位で「法定相続分」を兄弟姉妹などと争い、時には「代償金」を払え、払わないの話になったとしたら、簡単に心の整理はつかないことを。
ましてや相手が肉親なんですから。

 

なぜこうなってしまうのか? 大きな理由が3つほどあります。

  1. 時代が変わった、民法が変わった、相続法が変わった
  2. 分けられない財産「実家」があるから
  3. 2次相続だから

 

1.と2..の理由については大方、察しが付くのではないでしょうか。
でも3.は分かりにくいでしょうね。順に解説します。

 

■均分相続に変わり、皆が「権利」を主張

まず1.について。
日本の”相続法”は「民法」です。
戦後、その民法が大きく変わりました。
長子が家を相続するという「家制度」を廃止し、兄弟姉妹が平等の相続権を持つという「均分相続」に変わったのです(以前の相続方法は「家督相続」といいます)。

 

均分相続

現在の相続は「均分相続」です。長男がエライ、なんてことはありません

 

戦前はとにかく「長男」がエラかった。長男だけが大事にされました。
「家」を継ぐ者、そして本家の長男なら”一族を守る人”と誰もが思っていましたから。
それが一朝にして変わった。
今は均分相続です。みな平等。
気持ちがいいほど平等な権利(と義務)です。
ところが誰もがこの新制度に慣れるわけではない。
親がそうです。特に男親は。
「家は長男に譲り、お墓も守ってもらう」と平気で言う。
つまり祭祀継承者なんですけど。
「家代々」という観念を引き継ぐ者で、特に地方ではこの傾向がまだまだ根強く残っていますが、現実はどうなんでしょう。

 

現在の長男自身はどうか。
育てられ方でいかようにも変わるのでしょうが、「長男」を意識して育てられた場合には責任と権利を感じるようです。
しかしほかの兄弟姉妹は・・・・。
人間としてなんの差もないことは普通に戦後の教育を受けていれば、誰から特に言われなくてもわかります。
しかも今はメディアが発達している。
「相続」に関する情報もあふれかえっている。
あらためて民法を見返せば「第900条4項」に

子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。

と「均分相続」の原則が明確に書かれている。

 

もっと言えば、その上の1項、2項、3項には「法定相続分」まできっちり書いてある。
だから「法定相続分をもらうのは当然の権利」と考えても不思議ではありません。
(実際には「法定相続分」は”もらえる権利”ではなく、”遺産を分ける目安”にすぎないのですが)
かくして争続の火種が1つ、生まれます。

 

■分けられない財産「実家」が問題

2番目は「分けられない財産・実家」です。
不動産だから分けられませんよね。
家を半分だけもらっても変な感じです。
「土地だけ半分?」それも使いづらそう。
ところが実際は・・・・あります。
実際に家や土地を2つや3つに割るわけではありませんが、「共有」という方法があるのです。

 

「家を分ける方法」は4つある、それを紹介しましょう。

 

「実家」を分ける方法

「実家」という不動産を分ける方法は4つあります

 

「現物分割」は母屋と離れがあるような場合でないと難しそう。
「共有分割」は上で説明したように、「持ち分」だけを分ける方法です。
「分ける」と書きましたが、実際には分けられない。
同等の権利がある、というだけ。
これは権利を登記するだけなので非常に簡単。
実際に、もめるのを避けようと家と土地を共有にする相続が少なくありません。

 

しかしこの分け方はなるべくなら避けた方がいい。
共有者は誰1人、自由にならないからです。
家を売る、人に貸す、誰かが住む・・・・すべての事項について共有者全員の同意が必要になります。
めんどくさい。話がややこしくなるばかりで何も決められない。
だからおすすめしません。

 

「換価分割」。要するに「売っちゃえ」という方法。
売れればいいですけどね。
現在のように不動産市況が年々落ち込んでいる時にはなかなか売れません。特に地方では。
それに「実家」を売るというのは、生まれ育った”わが家”を売るということですから、心理的な抵抗も大きい。
実家を売ってお金に換えられれば、平等に分けられて問題解決に近づくんですが。

 

「代償分割」。
実際にはこの方式が多いでしょうか。家は売らない。誰かが相続する。
しかし「実家」の価値は預貯金の金額よりはるかに高いことが多い。
実家を相続した人が金額の多寡でいうと一番「得」をする。

 

そのような場合、例えば実家の価値が3000万円相当、他に相続財産は銀行預金が1000万円、相続人は兄弟2人──というケースで考えると。
兄が実家を相続、弟は預金1000万円をもらう。
法定相続分は2000万円あるのに、これでは弟が不満です。
だから兄が相続分に足りない1000万円を弟に払ってやる。
これが代償分割です。

 

『よしよし、公平に分けられた』とお思いですか? 
やり手社長ならいざ知らず、兄がサラリーマンだったら「1000万円」は大きな金額です。
相続税なら払わなければその代償は大きいですが、相手は弟、なんとか大幅にまけられないか(つまり我慢してくれないか)と願うところ。
でもなかなかそうはいかない。
だから恨みが残ります。

 

■2次相続の時が”争族”の本番!

「実家」の相続はやっかいです。
しかしふつうのお宅の1次相続ではめったにもめません。
「1次相続」とはご両親のどちらかが亡くなった最初の相続のことです。
十中八、九はお父さんが先に亡くなります。
ここでもめるのはたいてい資産家です。
ドラマ『遺産争族』の世界。
無茶苦茶な遺言などをすると家族のきずなを裂きます。

 

でもふつうのお宅の場合、お父さんは特に遺言を遺さず、分けるべき相続財産も「実家」と老後資金の預貯金くらい。
よほどその額が大きければ別ですが、多くの場合「とりあえずお母さんが全部相続すればいいんじゃない」で話がまとまる。
現実に「配偶者の税額軽減の特例や「小規模宅地の特例※※などがあって、相続税も大幅におまけされ納税しなくて済む場合も多いので、お母さんに寄せる傾向が強くなります。
※【配偶者の税額軽減の特例】配偶者は、➀法定相続分の半分か②正味の遺産総額が1億6000万円まで相続税が掛からない、という特例。
※※【小規模宅地の特例】配偶者や同居親族などは住家の宅地330㎡までは相続税評価額が80%軽減される、という特例。

 

しかしそのお母さんが亡くなったときに行う「2次相続」では様相が一変します。
一家の支柱でありいざとなった時のなだめ役の母親はもういない。
欲と感情が露骨に出てきます。
今までは抑えられた欲望がなぜ暴走してしまうのでしょうか。
それは遺産を「私たちのもの、俺たちのもの」と思っているからです。

 

相続財産への意識が1次相続と2次相続では違うんですね。
お父さんの時は、「財産はお父さんが築いた(先祖から受け継いだものがあるにしろ)」と、ちゃんと意識している。
それを「とりあえず今回はお母さんに預ける」。
だから2次相続では「お母さんの財産」と思っていない。
すでに自分たちのもの、自分たちに権利があるものと思っているから、「遺言なんかを遺されて混乱させられたらたまらない」「お母さんの感情で自分の取り分が左右されてはかなわない」と思ってしまうのです。

 

■「遺してやろう」と思う必要なし

でも、本当はこの考え方、ちょっとおかしい。
「相続」は「相(おもい)を続(つなぐ)」です。
誰の思いかと言えば、自分より前の代から引き継ぎ、その上に自ら築いた財産を加えたご両親の思いです。

 

法定相続人は、民法上は相続財産の共有者であり、その意味では”権利者”ですが、すべての財産を当然に引き継ぐ権利があるわけではありません。
優先するのは遺す人の思いです。
だから遺言書は遺産分割協議に優先するんです。
と、今さらお説教めいた話をしても始まりませんね。
ともあれ財産を遺す人の思いはほぼ全員、「おカネのことでもめてほしくない」でしょう。
そして先に亡くなった人の思いは、間違いなく、残った配偶者が「安心して暮らせるように」だったと思います。

 

このように考えると、1次相続で得た遺産は、必ずしも後代に遺さなければならないというものではありません。
(残った配偶者にとっては)まず「自分が暮らしていくために使うべきもの」です。
だからこそ制度も先ほど挙げた2つの特例を用意して配偶者の生活を守っているわけです。
1次相続から2次相続発生までに至る遺産は少しずつ目減りしていって当然です。
子どもたちに気兼ねして「たくさん遺してやろう」などと思う必要もない。
自分のために使っていいんです。

 

その結果、残ったものが2次相続における遺産。
今度は”守るべき人”はいませんから、思う存分取り合えばいい。
格差がますます広がっている社会ですし、親から回ってくる財産は大いなる助け。
早い話、住宅資金や子どもの教育費に回せるお金はあればあるほど助かる。
だから「少しでも多く」と、譲らない。
まあ、仕方ないでしょう。

 

ただ、ここでも時代の様相は「昭和」の時代とは様変わりかもしれません。
亡くなる人の年齢が急激に上がっていますから。
するとどうなるかと言うと、切実にお金を求めているのは子の世代ではなく(被相続人にとっての)孫世代なのかもしれません。
でも、より多くをもらえれば、親から子への贈与ができるかもしれないし、自分の「老後資金」に回せますから、やはり遺産は多く獲得したいでしょう。

 

■もめさせないためには「技術」と「情報」

(私やあなたのような)ふつうのお宅の相続では、遺産総額は「ものすごく大きい」というものではありません。
遺産の中に占める割合は「不動産」が圧倒的。
分けにくい財産の筆頭ですから、どだい平等に分けるなんてできっこない。
でも「それをやれ!」と民法や時代の空気は求めています。
それで4つの方式があるわけですがどれも一長一短、これがベストとはなりにくい。
どこかで誰かが我慢するしかないんです(我慢しないから家族の紛争が法廷にまで上がってしまう)。

 

こういう観方は「道理」だと思うんですが、今はわからんじん(分からん人)ばかり。
「相続」と言えば至る所”争続”ばかり。
それでもこれから「相続」を考えるあなたは、そこを切り抜けなければならないんですから、解決するためには「技術」が必要です。
技術を使ってできるだけじょうずに分けたとしても、それで納得するかどうかは、最後の最後、そこに居合わせる相続人の気持ち次第です。
「気持ち」なのだから、こじれもするし氷解することだってある。
ここは「技術」ではなく、説得する人の「想い」なんだと思います。

 

何も知らせていないのに「分かってほしい」「分かるだろう?」はないんです。
一番大事なのは情報開示。
秘密にしないで、家族で情報を共有するんです。
そして、みんなで考える。
それもお母さんが亡くなった後にがん首そろえてやおら会議をするのではなく、生前からお母さんを中心に何度も話し合っておく。
そうすれば、もめる確率は確実に減ります。

 

「まえがき」はここまで。
次回から「実家をもめずに相続する方法」について私が考えていることをご紹介します。

 

【「実家」をもめずに相続する方法】

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遺言、相続対策と家族信託の専門家です。特に最近は家族や事業を守るための民事信託への関心を強めています。遺言書や成年後見といった「民法」の法律体系の下では解決できない事案を、信託を使えば答えを導き出すことができるからです。
40年間、ジャーナリストでした。去る人、承継する人の想いがよりよくかみ合うようにお手伝いしていきます。

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1950年生。ジャーナリストです。相続対策家(行政書士)。小さな出版社の社長でもあります。何を書いてもユニーク。考え方がまともなだけなんですが。このブログは遺言相続、家族信託、それと老後のあれこれについてが中心。

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