こんにちは、静岡県遺言普及協会の石川秀樹です。
きょうは「秘密証書遺言」についてご説明します。
自筆の遺言、公正証書による遺言、そして秘密証書遺言は第3の遺言です。
注目度は低いですが、私は「使えるぜ‼」と思っています。
■スピードが命の秘密証書遺言
日本で普及しているのは公正証書による遺言です。
遺言を書く人は10人に1人くらいしかいませんが、その9割が遺言を公正証書にしています。
自筆で遺言をのこす人は1割以下。まして秘密証書遺言ときたら……コンマ以下。
だから価値がない、と思うのは『違うんじゃないか』と私は思います。
なぜ「使える‼」と私が思ったか、から解説します。
それはスピード感です。
公証役場はここのところ繁忙を極めています。
私は基本的には遺言公正証書をお勧めしていますが、公証役場に持ち込んでから1か月超も待たされることがあるのです。
これは実務家としては「話にならない遅さ」と感じます。
遺言者のお話を聴き、私が文案をまとめる。
自筆遺言なら、遺言者がそれを書き写してくれれば、その瞬間に完成します。
それをわざわざ公証役場に持っていくのは、
①内容が複雑で多岐にわたる
②法的効力が微妙な場合にはセカンドオピニオンを求めたい
③何より遺言者自身が「公正証書で作った」という”権威”を求めている
④遺言者死亡後の検認が不要になる
⑤原本が公証役場に保存され紛失の恐れがない
――などによります。
しかし遺言者の中には死期が迫っている人もいます。
日々、<危急存亡の秋>と感じる人に1か月以上待ちましょう、というのは酷です。
その点、秘密証書遺言なら予約して公証役場に赴けば、その日のうちに遺言書となります。
時間短縮効果は絶大。
「秘密遺言」というと「秘密」という言葉にとらわれ、「誰にも知られないで遺言を書くための方式」と考えがちですが、私は「違う観点がある」と思っています。
専門家が関与し、しかも早くできる。
これが私がおすすめする秘密証書遺言の形です。
■パソコンOK、代筆も問題なし
秘密証書遺言は民法970条に書かれています。
第九百七十条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
条文にはひとことも「秘密」という言葉が出てこないのに、民法はわざわざ表題に「秘密証書遺言」と書きました。
第1項には「署名し、印を押すこと」とのみ書いてあります。
これに対し968条の「自筆証書遺言」では、
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」
つまり、全部手書きを表明しています。
ところが、秘密証書遺言では「全文自筆」という縛りがない!
「署名だけは自筆にしてね」と読み取れます。
だから、パソコンで遺言を書いてもいい。
他人の代筆でもOK。
ということは、私のような士業の者が遺言者のお話を聴き、メモを取り、それをパソコンで打って内容を遺言者に読み、「これでよろしいですか?」と確認を行えば、後は遺言者が署名しハンをつけばよいということです。
(口授を書き写すという方式は遺言公正証書を作る場合とほぼ同じ)
もちろん聴き取る間に私は、「法律的な問題がないか」など専門家としてチェックします。
この過程を(余人を交えず)ひとりで行えば、完全に「秘密」は守られるでしょう。
民法はそれを想定して「秘密証書遺言」としたのだと思います。
この後の作業は、
①遺言を書いたらそれを封筒に入れて封印。
②偽造されないよう閉じた個所に、遺言に打ったハンと同じハンを打つ。
③それを公証役場に持参し、「自分の遺言だ」と公証人に口述。
④証人2人に来てもらうという、公正証書並みの丁重な扱い。
――もし遺言を1人で書いていれば、①~④の間、誰も封書の中身までは見ていません。
まさに「秘密」は封印されるわけです。
■遺言公正証書の方がすぐれている⁈
と、少々劇的に秘密証書遺言を紹介したわけですが、
しかし理屈っぽい人は、こう言って「秘密証書遺言」のメリットを却下するかもしれません。
秘密証書遺言のメリットは「代筆が効くこと」と先ほど書きました。
でも、遺言者が口述してそれを誰かにまとめてもらい、パソコンで打ち直すということは、遺言公正証書の作成過程がまさにその方式なのです。
しかも聞いた話を遺言公正証書をまとめるのは公証人。
さらに秘密証書遺言では本人の署名が必須になっていますが、遺言公正証書は
「遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。(民法第969条4項ただし書き)」
つまり、自署さえ公証人がなんとかしてくれるのです。
だとすると、秘密証書遺言のメリットは、遺言公正証書より安い(一律1万1000円の手数料)ことしかない⁈
それと、そもそも「遺言の内容が誰にも知られない」と言うことこそ大きなメリット?
(なんだか自分で書いていて、トーンが下がってきてしまった……)
私は「秘密にしておけることがメリット」とは到底思えないので。
■1人で書くこと、おすすめしません‼
完全に秘密にするというのは、1人で書く、ということです。
これは、ぜったいにお勧めできません。
自筆遺言でも同じことが言えますが、ひとりで遺言を方式に則って書き、法律的な効果まで意識して書ける人はあまりいません。
だからこそ、お金を使ってでも公正証書にして専門家の目を通したいと、遺言公正証書に傾くわけです。
私が秘密証書遺言に着目したのは「秘密にできる」からではありません。
そうではなく、パソコンが使える、代筆もOKだ、という点です。
『それなら、(公証人ではなく)私が聞き書きできる!』と思ったからです。
体力、気力が衰えた人に全文自筆はつらいでしょう。
でも、書きのこしたい思いはあるはずだ。
『それを忙しい公証人を前にして言うのは、敷居が高いだろうな』
まさにそこです。
遺言者のいっぱい積もった思いをひも解く代理人が、もうひとり必要なんです。
実は、遺言公正証書をつくる場合もいきなり公証役場に行くのは得策ではありません。
(以下、完全に私の個人的な意見ですが)
普通の方は、考えが整理できていない場合が多いです。
私は遺言の内容をお聞きしたら、なぜそうしたいのかをうかがいます。
強い思い込みや嫌悪感、誤解があったり、とにかく”大きな落とし穴”が見つかることが多いばです。
落とし穴とは、専門家ならすぐに分かる遺留分の事だけではありません。
遺言は元々、何も書かなければ法定相続分で法定相続人に分けられるはずの遺言者の財産について、「それでは嫌だからもっと不公平にしたい(誰かを優遇することは誰かの取り分を減らすこと)」ということです。
だからこそ「秘密にしておきたい」という人もいるわけですが、そういう遺言は時限付き地雷のようなもので、ご本人が亡くなってから親族間に混乱を引き起こす可能性が高くなります。
ゆるぎない覚悟でそのようにしたい場合は、誰も何も言えないわけのでしょうが……。
私は性格上、注意を喚起してしまいます。
するとかなり多くの方が「それでは」と再検討をしてくれます。
公的立場にいる公証人だと、そこまでのお節介はまず焼かないでしょう。
■専門家と二人三脚ならデメリットなし
秘密証書遺言がなぜ使われないのでしょう。
(全国で年間100人以下、と言われます)
最大の理由は「秘密」とあるので、「1人で書かなければならない」という思い込みがあるからです。
でも、ほんとうは代書が効くんですよ。
1人で書かなくていいんです。
専門家と二人三脚で考えをまとめて、落ち度のない遺言を書けるんです。
秘密証書遺言の欠点をさらに挙げてみましょうか。
最大の欠点と思われがちなのが「家庭裁判所の検認が必要」だということ。
確かに、自筆遺言でも「そこが最大の弱点」のように言われます。
しかし、考えてもみてください、家庭裁判所に行かなければならないのはあなたではない!
遺産分割は右から左にパッパと決められるものではないですから、検認に1か月待たされても大した支障にはなりません。
2番目には「証人が2人必要」。
1人で秘密証書遺言を書くと思っている人には、確かにここは大障害になりそうです。
しかも「相続人と受遺者(遺贈を受ける人)及びその配偶者と直系家族」は証人になれないとされていますから、これでは「候補者難」必至です。
しかし私の提案は「専門家と二人三脚で書く」ですからね。
まず私が証人になるし、あと1人は公証役場に依頼しておけば役場が証人を手配して、約束の日に待っていてくれます。
「証人2人」はなんの障害にもなりません。
3番目は「費用がかかる」。
これは、欠点でしょうか。
人の手をわずらわせれば、費用がかかるのは当然。
自筆ならたしかにただで済みますが、代わりに大きなリスクを抱えます。
「ただ」はメリットではなく、危なすぎて最大のデメリットです。
秘密証書遺言の公証人手数料は、先ほど書いたように、わずか1万1000円。
これは遺言公正証書の手数料が遺産額によって決まることに比べ、ものすごく格安です。
4番目。「紛失する恐れ」。
これは自筆遺言と同様、最大の弱点です。
この世に唯一無二の文書ですから、失くしたら大変だ。
※自筆遺言は、2年後には法務局で保管してくれますが、秘密証書遺言は対象外(残念!)
ただし、公証役場には秘密証書遺言が存在していることの記録は残ります。
(私が想定している秘密証書遺言の出現シーンは、遺言者の病が篤い、危急が迫っている場合です。短期間なら静岡県遺言普及協会がお預かりすることもできます)
■「秘密」にとらわれず、危急時に使いたい
きょうは「秘密証書遺言」について、発想を変えればこんな使い方があることをお伝えしました。
自筆の遺言について、静岡県遺言普及協会は「短く、最も重要なことのみを書き遺すときに威力を発揮する」と言ってきました。
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秘密証書遺言はそれに準じ、自分ひとりの秘密とせず、専門家の協力を得て急いで自分亡き後のことを決めておきたい場合に、大いに力を発揮するものです。
病が重いからと、遺言をあきらめることはありません。
よい聴き手がいれば、あなたの思いは届きます。
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静岡県遺言普及協会
ジャーナリスト石川秀樹(相続指南処、行政書士)
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