★ドラマ遺産争族、「自筆遺言のワナ」より怖いのは「相続税」に無策を続けることだ!

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遺産争族』が佳境に入ってきた。
テレビ朝日系の木曜ドラマ。登場人物が芸達者なうえに、ストーリーも遺言・相続にまつわる”事件”を巧みに絡ませ「相続基礎講座」を学び直しているような気分になる。
それはいいのだが今回、ドラマが触れていないテーマが気になり始めた。事業承継に係る「相続税」の話だ。第7話の流れを負った後、少し解説したい。

 

■龍太郎の相続財産は4億5000万円

さて前回は、葬儀社の会長である河村龍太郎が「全財産を医療関係の団体に寄付する。詳細は娘婿の育生の判断に任せる」という危急時の遺言を遺したことを紹介した。
全財産を相続人以外の他人や団体に遺贈するとなれば、相続人はまず黙っていない。遺留分減殺請求を言い立てそうなものなのにドラマ第6話の時点では、家族は右往左往するばかりで、そこがまったくスルーされていた。
それで、遺留分減殺といってみても現実の処理はそんなに簡単ではないですよ、と大きなお世話ブログを書いたのだった。

★ドラマ『遺産争族』、遺留分請求したらを考えてみた──かくして優良中小企業が消える?!

 

7話目になって、ようやく「遺留分」の話が出てきた。
河村家の法定相続人は(母がすでに他界しているので)、陽子・月子・凛子の3姉妹。
陽子の夫、カワムラメモリアル社長の恒三の「すべて譲ると遺言書に書いてあっても、実際に遺産がすべて育生くんのものになるわけではありません」の言葉で3人は遅まきながら「遺留分」のことを知るのだが、凛子はこんな皮算用をした。

 

育生くんに半分持ってかれて、半分を3人で分けると7500万円か・・・・(セリフは正確ではないが)。
7500万円×3=2億2500万円が3人の遺留分。育生も同額もらう。すると河村龍太郎の遺産総額は4億5000万円という設定であることが分かる。案外少ない。(前回私は12億円くらいと想像していた)

 

■新しい遺言が前の遺言に優越する

7話の注目点はなんといっても「自筆遺言書のワナ」である。
家族のいさかいに頭に来た(?)育生は態度を豹変し、病室で龍太郎に「全財産を管理するのではなく、私にください。遺言を書き替えてください」と直訴した。表情を変えたから龍太郎は納得しなかったのだろうが、ある思いがあって、「承知した」とその場で新しい紙を取り出し遺言を書き直す。ところが「あっ、印鑑がない」。それで育生に遺言を手渡し、「家の仏壇にある印鑑を探して押してきてくれないか」と頼んだ。

 

『あれあれっ、自筆の遺言なのに?!』と思ったら次のシーン。
龍太郎が弁護士に遺言を書き替えた旨を電話連絡し詳細を話す。弁護士は「それが何を意味するかご承知ですか?」と意味深な問いかけ。「すべて承知してやっている」。それを聞いて弁護士が「地獄を見ますよ」とつぶやいた。
ここまでが伏線(おもしろくなってきた)。

 

6話では龍太郎が病室で「危急時の遺言」を書いた。証人3人。弁護士が聞き取ったことを紙に書いて遺言書に。遺言者本人に内容に相違がないか確認したうえ、証人3人が署名押印。すぐさま家庭裁判所にその紙を持っていき内容確認を請求。これで正式な遺言書になった。
しかし今回、あらたに龍太郎は自筆の遺言書を作成した。どちらの遺言書が有効なのか。答えは「日付の新しい方」だ。手間暇かけ弁護士まで付けて作成した遺言書より、今回さらさらと自分で書いた遺言書の方が、「後で書いた」が故に前の遺言書に優越する。

 

■二転三転、自筆遺言の”乱”

しかし龍太郎が退院し自宅に戻ってから、さらに一騒動が起こる。
今回も狂言回し役は、にわか勉強で遺言・相続に強くなっていた恒三だ。
退院前、恒三は龍太郎を病室に見舞っている。遺言書き直しの真意を探る。その時龍太郎は「この場で書き替えた」と話す。『この部屋で?』恒三のひとみか一瞬輝いた。
そして自宅の居間で関係者全員が顔をそろえて遺言書き換えをめぐって大もめにもめている最中、「あの遺言は無効です」と言い放つ(そら来た!)。

 

そもそも自筆遺言書の要件は・・・・
➀全文を自分で書く、②日付を入れ、③署名し、④押印
たったこれだけだ。今回は何が問題? そう、ハンコだ。自分で押していない。他人が押していれば、偽造、変造さえ疑われかねない。

 

「お父さんはそれを知った上で、育生くんに印鑑を押させたのではないかと思います」と恒三はいう。育生の心変わりに、財産をやるのが惜しくなったというのだ。
(ここまでは読み通り)ところが、まだあった!
今度は育生が反論する。

 

「おじいちゃんの遺言は有効ですよ。通常は、お父さんのお言葉通り、他人が(遺言書に)印鑑を押した場合は無効です。しかし、遺言を作った人が入院している場合に限り、他人に頼んで印鑑を押してもらった場合も有効なんですよ」
育生はなぜか判例まで知っていた。当然、弁護士も百も承知のはず。「地獄を見ますよ」は、龍太郎の勘違いを遠回しに警告したものだったのである。

 

この辺の自筆遺言の有効・無効の話は視聴者にとっても大いに参考になるだろう。

 

遺産争族と相続税

遺産をめぐって身内同士で争うよりも、足元を固めないと・・・・

 

ただ今回話では、龍太郎は一瞬ひるみバツの悪い顔をしたのだが、それで万事休したわけではない。
何といっても龍太郎はまだ生きている。
生きている限り、遺言は何度でも書き直せるのだから。

 

このドラマ、次はどんな手を見せてストーリーをひっくり返してくれるのだろうか。興味が尽きない。

 

■争族より、納税資金が問題だ!

と、ここまでで話を区切ってもいいのだが、きょうは少々蛇足を書きたくなった。
(蛇足であり、たぶんこれ以降のドラマで出てくることはないテーマだとは思うが)行政書士の私としては見過ごすことのできない論点。
相続税」である。
相続税の話がまったく抜けていることが、何とも気にかかるのだ。

 

龍太郎の財産は思っていたより少ない4億5000万円だった。
それでもばかにならない相続税が掛かってくる。しかも相続税は現金でまとめて納めなくてはならない。
ちょっと計算してみよう。

相続税速算表

 

遺産総額4億5000万円。法定相続人は姉妹3人。
各相続人の法定相続分は1/3だから、法定通りの相続分は各1億5000万円。その相続税は「速算表」から割り出すと
1億5000万円×0.4-1700万円=4300万円
この相続にかかる相続税は 4300万円×3=1億2900万円 ということになる。

 

■争いに勝っても払えるのか?!

仮に育生が全財産を遺贈され、3姉妹が遺留分減殺請求をすると、各人が受け取る金額は
育生 2億7500万円
陽子・月子・凛子 各7500万円
育生がもらうのは龍太郎の遺産のすべて、つまり「包括遺贈」されることになるので相続人と同じ権利と義務を負う。
したがって相続税も相続人と按分した額だけ納めることになる。

 

すると4人の相続税額は
育生 1億2900万円÷2=6450万円
陽子・月子・凛子 6450万円÷3=各2150万円
庶民の感覚では”かなりの重い金額”である。

 

もっとも「家」については税が軽減される可能性がある。
陽子のような同居者が実家を相続する場合は「小規模宅地等の評価減の特例」が使えるからだ。330㎡までの宅地は評価額が80%まで減額されるから税金はかなり圧縮される可能性がある。
しかし首尾よく「家」を取り戻し、それを陽子が相続することになるのかどうか。

 

もうひとつ、月子が欲しがっているカワムラメモリアルの自社株も「会社を経営していた被相続人から自社株を相続する場合は、相続税評価額の80%までを猶予」してもらえる可能性がある。
しかしこれも「要件を備えていれば」の但し書き付き。月子は現状、同族株式の筆頭株主でもなければ「後継者」でもない。また龍太郎自身が、事業承継のためにこの特例を使う場合の最重要要件である「経済産業大臣の認定を受ける」手続きをした形跡もないから、この特例は100%使えない。

 

さらに『遺産争族』の主人公になっている育生の場合、年収300万円台だった研修医が(7話では「医者をやめる」とまで言い出した)どうやって6450万円もの相続税を納めるのか・・・・。

 

■事業承継を考えない相続は愚かの極み

ドラマは現実の戯画(カリカチュア)であるから細部をほじくり返して騒ぎ立てる必要はない。
しかしせっかくの「遺言・相続を考える絶好の話題」なので、あり得るべき現実のことも少しは知ってほしいのだ。

 

その観点から言えば、元経営者たる龍太郎のふるまいは幼稚すぎる。
真剣に自ら興した会社の存続と隆盛を願うなら「事業承継」を第一に考え、必要な準備と対策を現役社長である恒三と相談して講じておくべきだ。
「私はあいつの(経営に対する)やり方が気に食わない」どころではない。
自宅という分けにくい財産と、自社株という当人たち以外は欲しがらない(つまり市場性がない)、それでいて相続税評価は極めて高いやっかいな財産が多くを占める場合、さらに今回は(納税資金となる)現金が少ない!
このような相続は、最も「相続破産(争続破産)」が危惧される”危険コース”の典型だ。

 

経営への影響を最小限に抑える手立てはいろいろある。
経営者の自宅と自社株整理はオーナー型企業にとっては真っ先にやっておかなければならない鉄板の「事業承継対策」である。
これほどのほほんと、専門家の知識と知恵を使おうともせずおかしな遺言を連発するのは、油断やおごりというより「無能」と言う方がふさわしい。

 

もっとも、そんなことに思い当たる人物を主人公にしていたらこんなにおもしろいドタバタ劇は生まれなかったに違いない。
この話、最後の最後どのように決着するのだろうか?
ドラマ内の経営者は無能だが、脚本は秀逸だ。
最終話まで目が離せなくなった。

 

<行政書士 石川秀樹(ジャーナリスト)>

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