ご質問が多いので「成年後見」にかかるコストと「家族信託」の費用を比較してみました。
結論を先に書いておきます。
成年後見はランニングコストがあまり高い。
家族信託は初期費用こそかかりますが、コストはそれだけ。
共に長期間にわたる”支援”になるので、成年後見の生涯コストは家族信託の10-30倍となります。
■成年後見人の報酬は未公表
成年後見は家庭裁判所が関与して行われます(準国家管理)。
成年被後見人は事理弁識能力を完全になくした人が対象で、被後見人は登記され、医師、薬剤師、弁護士、士業、議員、公務員、会社役員などを続けることはできなくなります。
一度家裁に申し立てを行うと、取り消しはできませんのでこの点、注意が必要です。
また、「成年後見人は家族がなる(なれる)」と思っている人が多いですが、最近は様変わりしています。
家族や親族が成年後見人になれるのは20%台にすぎません。
職業後見人が就任すると、もちろん報酬が発生します。
さて「成年後見」にかかる費用ですが、家庭裁判所が発行する資料の中にはほとんど記載が見当たりません。
そこでGoogle検索した結果、東京家庭裁判所立川支部の資料にたどり着きました。
「成年後見人等の報酬額のめやす」平成25年1月1日付の文書です。
文書を一覧表にしてみました。
■成年後見コストは数百万円
かなり明解になりました。
基本報酬の目安は月額2万円だそうです。
しかし管理財産(預貯金及び有価証券等の流動資産)が1000万円を超えると、成年後見の基本報酬額は月額3万円~6万円に跳ね上がります。
成年被後見人の年齢は、男性だと65歳以上が70%、女性では87%です。
成年後見は本人が亡くなるまで続きますから、生涯報酬を試算してみましょう。
◆平均を取って、70歳から成年後見制度を使った場合───
70歳男性の平均余命は15.72年、女性は19.98年<平成28年簡易生命表>
基本報酬額は3万円とします。
<男性>3万円×12ヶ月×15.7年=565万円
<女性>3万円×12ヶ月×20年=720万円
◆80歳から成年後見ならどうでしょう。
平均余命は男性8.92歳、女性11.82歳。
<男性>3万円×12ヶ月×8.9年=320万円
<女性>3万円×12ヶ月×11.8年=424万円
あらためて計算してみると、かなりの金額でしたね。
流動資産が1000万円以上の場合でこの数字ですから、5000万円超ならこの倍の費用がかかります。
「成年後見人を付けたら1000万円」というのはリアルな話だったわけです。
■離脱不能の成年後見 ‼
「こんなはずではなかった。もうやめたい」という人はたくさんいます。
元々が成年後見を申立てる理由の8割強は、「本人の預貯金を(療養看護費に充てるため)おろしたい」というピンポイント(その時限り)の必要から。
当てが外れたと思っても無理はありません。
[aside type=”warning”]最高裁判所が発表する平成28年の「成年後見事件の概況」では、主な申立て動機中「預貯金等の管理・解約」が28,254人。事件総数は34,346人ですから、82.3%がこの理由だったことになります。 [/aside]
それにしても「本人の預貯金をおろす」だけのために成年後見人の選任を申し立て、数百万円もかかるとは、想像もできなかったでしょう。
しかし、成年後見制度から”離脱する”ことはできません。
成年後見人に家族が不信感をもって解任したくても、家庭裁判所はよほどの不正がなければ解任に応じません。
運よく解任できたとしても、次の後見人を家裁が選任してくるだけ。
成年後見制度から抜けるのは不可能です。
■成年後見は最後のよりどころに使え
とはいえ、成年後見制度の存在意義はあります。
例えば、家族や親族が本人の看護から財産管理までやっているような場合(たったお1人でコレをしている場合も多いです)、長期になれば疲労困憊するでしょう。でも逃げ場がありません。
老々介護も日常的になっている昨今です。
私は、「最後のよりどころとして『成年後見』という制度がありますよ」と、よく話します。
責任に押しつぶされそうになった時には、この制度に”本人を預ける”ことがあってもいいと思います。
むしろ、そういうときのために成年後見制度はあるのだ、と思います。
■家族信託の料金は高い⁈
家族信託の費用に話を移しましょう。
「家族信託はよさそうだが、費用が高い」と、よく聞きます。
その通りで、認知症対策としてふつうの家族が「家族信託の契約書作成」を依頼できない事情があります。
首都圏では、1件100万円の報酬も珍しくありません。
二の足を踏んでも当然です。
またある相談者は私にこんなことを尋ねました。
「先生の事務所では、家族信託の料金は不動産の価格と連動していますか?」
他の事務所のことはまったく関知していないので、
聞かれて「? ? ?」でした。
確かに、税理士の「相続税申告」は遺産の価額によって報酬が変わる、と聞いたことがあります。
『5000万円』の場合と『5億円』では難しさや手間暇が違うのでしょうね。
そういえば公証人さんの手数料も、契約対象の価額によって報酬が増減します。
そういう前例はあるものの、「信託財産に組み込む不動産が1000万円だから安く、1億円だと高い」なんてことがあっていいのでしょうか。
基準はあくまで契約書作成の難しさ、時間がかかる複雑な案件かどうかだと思います。
自宅だけであれば、家族信託の契約書はそれほど複雑にはなりません。
自宅と収益マンション、などとなると途端に難易度は上がります。
手間暇もかかりますから報酬も上げざるを得ません。
また、家族信託はまだ普及途上の財産管理法ですから、銀行など金融機関の対応はまだまだ遅れています。
[aside type=”warning”]はっきり言って「遅れていますよ!」銀行さん。せめて「成年後見」と同等くらいの現場周知を徹底してほしいです。認知症800万人時代、「判断能力を失くした人の金融資産の出し入れをどうするか」は天下の大事。腹をくくって新しい制度や財産管理法に対応していくのが金融機関の務めです。いつまでも「家族信託?それって何ですか」は通りませんよ! [/aside]
それゆえ、金融機関等の説明や説得のために多大なエネルギーを費やさなければならない、という事情があることは事実です。
家族信託の契約書作成案件が自筆遺言書の文案作成に比べて高め設定になるのは、その辺の事情があるのではないかと考えます。
■成年後見はサービスでなければならない
しかし、そんな時代もそろそろ転換していきそうです。
私が手掛けている「家族信託」は「認知症対策のため」というケースが多いのですが、その引き合いが最近目に見えて増えてきています。背景には「成年後見」の使いにくさがありそうです。
あまりに権威主義的で上から目線の財産管理、その結果を家裁には報告するが、家族に知らせる義務はない。
今どき民間で、1000万円超ものおカネをポンと預け、「お礼」をいわない会社・団体はありませんよ。
まして最低限の”説明責任”さえ果たさない。
民間では見向きもされません。
成年後見では、職業後見人たちは年間数十万円の報酬が約束され、しかも本人が亡くなるまで長期にわたって”解約なし”。
こんな安定した仕事、めったにありません。
私なら「謹んで引き受けさせていただきます」と礼を尽くします。
法律家や士業の先生方は、「措置」だとでも思っているんでしょうか。
成年後見は「サービスでなければならない」と、私は思います。
そういう発想を持たないとこの制度、やがては立ち枯れていくでしょう。
■家族信託はランニングコスト「ゼロ」
家族信託の最近の注目度を見ると、そういう危機感をもちます。
認知症が深刻化した場合には「成年後見」に頼るしかありません。
しかし、これほど使い勝手が悪くランニングコスト(生涯報酬)が高いことが知れ渡ってしまうと………。
「何もしない」という家族が多くなりそうです。
それは社会にとって、決してよい兆候ではありません。
誰でも使える、利用者目線に立った運用に改めていくべきです。
そうでなければ、やがて「認知症対策としては家族信託だ」と、流れは完全に家族信託に向かっていくでしょう。
何しろ家族信託は初期費用だけで、ランニングコストはゼロ!
比較できる人なら、成年後見よりこちらを頼みにするでしょう。
しかしそれも意思能力がはっきりしているうちに気づいてこそ。
完全に事理弁識能力を喪失してしまえば、選択肢はなく、成年後見を頼むか何もしないかだけ。
その意味では、後見制度がこんなに居丈高であっては困ります。
先ほど書いたように、「家族信託→成年後見」という連携もあっていいわけですから、使いたくなる後見制度になるよう制度改革を急がなければなりません。
■認知症対策の家族信託は30万円
「高い」と思われている家族信託の料金ですが、認知症対策のための家族信託の費用は「30万円」です。
認知症対策だから「格安」にしているというわけではありません。
契約の難易度、カスタマイズ性から見てこの辺の金額が(現状では)妥当、と思っているだけです。
家族信託に対する金融機関や証券会社、年金事務所や行政機関の理解度がもう少し増してくれたら、説明して歩く手間暇がなくなりますから、もっと報酬を下げられるはずです。
きょうは「認知症対策としての家族信託の料金」に絞って書きました。
家族信託の応用範囲はもっとずっと広いです。
そのことは順に記事として書いていくつもりです。
家族信託全般の料金の目安をお知りになりたい場合は、関連記事の下のリンクをクリックしてください。
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静岡県家族信託協会
ジャーナリスト石川秀樹(相続指南処、行政書士)
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