任意後見契約を結ぶことにより、依頼者(本人)は任意後見人に何をやってもらえるのでしょうか。
何ができ、何はできないのでしょうか。
任意後見についての説明・解説はネットや書籍・雑誌等であふれるほどありますが、どれもあいまい。
実は「任意後見人にやってもらえること」=任意後見の受任者に代理権を付与する項目は、法律で明確に特定されています。
全項目をご紹介しましょう─────。
■法務省令に全一覧がある
全項目は、「任意後見契約に関する法律」の第3条に「証書の様式」が2種類規定されており、その”第1号様式”がチェック方式になっているので、そこにすべて列記されています。
任意後見契約に関する法律第三条の規定による証書の様式に関する法務省令
(附録第一号様式・チェック方式)A 財産の権利・保存・処分等に関する事項
A1 □ 甲の帰属する別紙財産目録記載の財産及び本契約締結後に甲に帰属する財産(預貯金[B1・B2]を除く)並びにその果実※1の管理・保存
A2 □ 上記の財産(増加財産を含む。)の処分・変更
□ 売却
□ 賃貸借契約の締結・変更・解除
□ 担保権の設定契約の締結・変更・解除
□ その他(別紙「財産の管理・保存・処分等目録」記載のとおりB 金融機関との取引に関する事項
B1 □ 甲に帰属する別紙「預貯金目録」記載の預貯金に関する取引(預貯金の管理、振込依頼・払い戻し、口座変更・解除等。以下同じ)
B2 □ 預貯金口座の開設及び当該預貯金に関する取引
B3 □ 貸金庫取引
B4 □ 保護預り取引
B5 □ 金融機関とのその他取引
□ 当座勘定取引
□ 融資取引
□ 保障取引
□ 担保提供取引
□ 証券取引(国債、公共債、金融債、社債、投資信託等)
□ 為替取引
□ 信託取引(予定(予想)配当率を付した金銭信託(貸付信託)を含む。)
□ その他
B6 □ 金融機関とのすべての取引C 定期的な収入の受領及び費用の支払いに関する事項
C1 □ 定期的な収入の受領及びこれに関する諸手続き
□ 家賃・地代
□ 年金・障害年金その他の社会保険給付
□ その他(別紙(定期的な収入の受領等目録」記載のとおり)
C2 □ 定期的な支出を要する費用の支払い及びこれに関する諸手続き
□ 家賃・地代
□ 公共料金
□ 保険料
□ ローンの返済金
□ その他(別紙(定期的な支出を要する費用の支払目録」記載のとおり)D 生活に必要な送金及び物品の購入等に関する事項
D1 □ 生活費の送金
D2 □ 日用品の購入その他日常生活に関する取引
D3 □ 日用品以外の生活に必要な機器・物品の購入E 相続に関する事項
E1 □ 遺産分割又は相続の承認・放棄
E2 □ 贈与もしくは遺贈拒絶又は負担付の贈与もしくは遺贈の受諾
E3 □ 寄与分を求める申立て
E4 □ 遺留分減殺の請求F 保険に関する事項
F1 □ 保険契約の締結・変更・解除
F2 □ 保険金の受領G 証書等の保管及び各種の手続きに関する事項
G1 □ 次に揚げるものその他これらに準じるものの保管及び事項処理に必要な範囲内の使用
□ 登記済権利証
□ 実印・銀行印・印鑑登録カード
□ その他(別紙「証書等の保管目録」の記載のとおり
G2 □ 株券等の保護預り取引に関する事項
G3 □ 登記の申請※2
G4 □ 供託の申請※3
G5 □ 住民票、戸籍謄本、登記事項証明書その他の行政機関の発行する証明書の請求
G6 □ 税金の申告・納付※4H 介護契約その他に福祉サービス利用契約に関する事項
H1 □ 介護契約(介護保険契約における介護サービスの利用契約、ヘルパー・家事援助者等の派遣契約を含む。)の締結・変更・解除及び費用の支払い
H2 □ 要介護認定の申請及び民定に関する承認又は異議申立て
H3 □ 介護契約以外の福祉サービスの利用契約の締結・変更・解除及び費用の支払い
H4 □ 福祉関係施設への入所に関する契約(有料老人ホームの入居契約を含む。)の締結・変更・解除及び費用の支払い
H5 □ 福祉関係の措置(施設入所措置等を含む。)の申請及び決定に関する異議申立てI 住居に関する事項
I1 □ 居住用不動産の購入
I2 □ 居住用不動産の処分※5
I3 □ 借地契約の締結・変更・解除
I4 □ 借家契約の締結・変更・解除
I5 □ 住居等の新築・増改築・修繕に関する請負契約の締結・変更・解除J 医療に関する事項
J1 □ 医療契約の締結・変更及び契約及び費用の支払い
J2 □ 病院への入院に関する契約の締結・変更・解除及び費用の支払いK A~J以外のその他の事項(別紙「その他の委任事項目録」記載の通り)
L 以下の各項目に関して生じる紛争の処理に関する事項※6
L1 □ 裁判外の和解
L2 □ 仲裁契約
L3 □ 行政機関等に対する不服申立及びその手続きの追行
L4・1 □ 任意後見受任者が弁護士である場合における次の事項※7
L4・1・1 □ 訴訟行為(訴訟の提起、調停もしくは保全処分の申立て又はこれらの手続きの追行、応訴等)
L4・1・2 □ 民事訴訟法第35条第二項の特別授権事項(反訴の提起、訴えの取り下げ、裁判上の和解、訴訟の放棄、認諾、上告、復代理人の選出等)
L4・2 □ 任意後見受任者が弁護士に対して訴訟行為及び民事訴訟法第55条第2項の特別授権行為について授権すること
L5 □ 紛争の処理に関するその他の事項(別紙「紛争の処理等目録」記載のとおり)M 復代理・事務代行者に関する事項
M1 □ 復代理人の選任
M2 □ 事務代行者の指定N 以上の各事項に関する事項
N1 □ 以上の各事項の処理に必要な費用の支払い
N2 □ 以上の各事項の処理に関する一切の事項
■契約書に代理権限を表記する
任意後見契約は▼財産管理と▼身上監護の2つの目的があります。
任意後見人が何をできるかは、契約書に記す「代理権限」次第。
その項目を列記しているわけですが、不動産の管理・保全・処分から金融機関との取引、年金などの受給、相続に関しては遺産分割協議の承認・放棄まで非常に幅広いです。
身上監護については、介護契約や病院への入退院の手続きが中心です。
赤い「※」印を付けた項目について説明しましょう。
※1。「果実」とはこの場合、不動産から得られる家賃収入などを表します。
※2~4。任意後見人には「家族」を筆頭に、職業後見人として弁護士・司法書士・行政書士・社会福祉士などが就任できます。
各士業には「専門」が決まっている分野があるので、対象外の案件については専門家に委託することになります。
「登記申請」「供託」は司法書士、「税金の申告・納付」は税理士の職分となります。
※5は重要です。
「居住用不動産の処分」とは、要するに自宅不動産を売ること(貸すことも含みます)です。
住みかがなくなるわけですから”慎重な対応”が求められ、任意後見監督人の同意がなければなりません。
任意後見監督人は家庭裁判所に必ず相談することになっているので、たとえ契約書に「これこれの場合には居宅を売る」というような条項を入れてあっても、100%許可されるとは限りません。
※6、7については弁護士の専管事項になります。
その他の人が任意後見人になっている場合、問題解決のためには弁護士の支援が必要となります。
後見事務が始まると、代理権目録に項目を追加することはできません。
依頼者の判断能力が失われているからこそ後見開始となっているわけで、任意後見人のできる範囲が限定されてしまいますが、これは仕方ありません。
■「なんでも」は過大な期待です
任意後見契約でやってもらえることは「成年後見人にやってもらえること」に近似しています。
《こんなにやってもらえるのかァ》と思いましたか?
実は、私はそう思っていません。
お金のことがある程度できて(日常の管理程度)、不動産の賃貸借契約はできるものの自宅売却には家庭裁判所の許可がいるし、収益マンションの建設など前向きなことはまずできません。
そうなんです。
できることは「お金のこと」少々、「不動産のこと」限定的に、だけです。
本人しかできない創造的はことは全くできません。
生前贈与なんか、もってのほかということになります。
やはり私は、任意後見契約は”補助的”には使えるけれど、実現したいことを持っている人は家族信託を使わなければどうにもならないだろうな、の思いを強くしました。
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静岡県家族信託協会
ジャーナリスト石川秀樹(相続指南処、行政書士)
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