「家族信託って、ひとことで言うと何ですか?」
よくこんな質問を受けます。無理もないですよね、一般の人にとってはほとんどなじみのない言葉ですから。しかし「ひとことで」と言われると悩みます。説明しなければならない事柄が多すぎるんです。だから、つい
『また無理難題を……』(ひとことで言えれば苦労しないよ)とつぶやきが出てしまいます。
■財産の「名義」が替わるのが第一歩
無理やりひねり出してみました。
《家族信託とは、財産の名義を換えることによって委託者の想いを実現していく手法である。》
う~ん、やはりわかりにくいですね。
家族信託のことを一通り知っている人なら、『ははぁ~ん、これは、家族信託を使うと民法のもとではできなかったことがどんどんできてしまう、その理由(わけ)を説明しようとしているんだな』と、お分かりいただけると思うのですが。
そもそも「家族信託」のことを知らない人には何のことだか見当もつかない。
ひとことで言うなんて命題はもう、無視することにします。
少し長いですが、これならどうでしょう───
《家族信託とは 意思・判断能力がしっかりしているうちに自分の財産を家族など信頼のおける人に託してその名義を変え、一定の目的に沿って財産を管理・運用・処分してもらい自分や、家族の願いを実現させていく仕組み。さらに、その財産を親族などに引き継ぐことまでできる魔法のような手法。》
家族信託は財産管理の一手法です。
本人に代わって第三者が財産を管理(守る)、活用し(活かす)、さらに次世代に財産を承継させる(遺す)。
守る・活かす・遺すを一つの仕組みで行えるなんて、家族信託しかありません。
■財産承継までできてしまう!
あっ、答えができちゃいましたね。
家族信託は、財産を守る・活かす・遺すをワンストップで行う画期的な財産管理手法です!
なぜ説明が難しかったかというと、「そんなことができる理由(わけ)」をどうしても説明したくなってしまうからです。
家族信託を上手に使えば
▼後継ぎ遺贈(次の次、さらにその次の人にまで遺産を承継すること)
▼認知症になった父親所有の家を売って、介護・療養費に充てる
▼自社株を100%所有する経営者に不測の事態が起きても経営はストップしない
───など、今までは無理だとされていたことができるようになります。
民法では「できない」とされていることが、家族信託を使えばなぜできるようになるのか?
そのわけは「名義変更」と「受益権」です。
名義を換えるというのは先ほどの”定義”の中でも触れましたから、なんとなくおわかりいただけると思います。Aの財産をB名義に書き換えれば所有権がAからBに移って、以後Bがその財産の管理や処分ができるようになる。至極当たり前のことです。
「でもAがBに財産を信託すると名義がBに換わる。すると、Aは財産をBに取られたことになりませんか? 管理の都合上“あげてもいいよ”というつもりであっても、その場合、Bに贈与税が発生してしまうでしょう?」
お察しの通りです。
■卓抜な「受益権」という発想
そこで登場してくるのが「受益権」という発想です。
民法には「所有権絶対の原則」というものがあります。
あらゆる他人の侵害に対して、財産の権利を主張できる完全な支配権です。
財産は単なる「名義」だけではありません、財産から生まれてくる利益(これを「受益権」といいます)も同時に所有者のものです。
図に表すとこんな感じです。
「名義」と「受益権」は常に一体のもので、分けては考えない。
分けられるとも思っていなかったのです。
ところが家族信託の法律の根拠である「信託法」では、はじめから「名義」と「受益権」は別々の権利だと考えます。
父親のAさんが長男のBさんに財産を信託したと考えてください。
所有の形はこう変わります。
財産の名義(オレンジ色の外枠)はBさんに。
「受益権」は名義と切り離され、誰の手に渡っても構いません。
それでは困るので「契約書」で「受益権はA」にとするのが一般的ですが、受益権は契約次第で誰に渡すこともできます(家族以外の第三者にでもOKです)。
民法と異なり信託法では、所有権には「名義」と「受益権」の2つの要素があり、2つは切り離せると考えるので、名目的な所有の権利である「名義」は甲に、所有することで得られる実質的な利益は乙に(あるいは他の誰かに)、というようなことが可能になるのです。
Aさんの例では、ごくごくシンプルに「受益権」は元々の持ち主(所有権者)であるAさんに帰属すると契約に書きます。
すると受益権はAさんのものになるので、財産管理は息子のBさんが行うものの、その結果生じる“得”はAさんが得ることになります。
この場合Aさんは、自分の財産であったものから自分が利益を得ているだけですから贈与税等の税金は一切かかりません。
■委託者・受託者・受益者
家族信託では、財産を預ける人(Aさん)を委託者、その財産を預かることによって財産の名義を得る人(Bさん)を受託者、財産から実質的に利益を得る人(この場合はAさんですが、他の誰かに替えることもできます)を受益者と呼びます。
委託者・受託者・受益者は聞きなれない(かつまぎらわしい)言葉ですが、大事な用語なので覚えてください。
■家族信託は「委託者=受益者」でスタート
なお、家族信託の解説書などでは「委託者・受託者・受益者」の信託3当事者を三角形で描くことが多いですが、実際には信託の初期においては「委託者=受益者」という当事者2人でスタートするのが一般的です。委託者と受益者が同一人である信託のことを「自益信託」といいます。
自益信託で委託者が死亡すると信託はどうなるでしょう。
そのまま信託を終了させてもよいし、図➀のように、契約書で第2受益者をあらかじめ決めておき、委託者aの死亡と同時に、今まで表舞台に現れていなかった第2受益者cに受益権が移る(図②)、ということもよくあります。
委託者と受益者が異なるこのケースを「他益信託」といい、この場合はcがaの相続人であるときはcに相続税が、その他のときには贈与税が発生することとなります。
■成年後見より家族信託の普及を
「まえがき」のつもりが、つい長くなってしまいました。
また、いきなり家族信託の核心に触れてしまったので、戸惑われた方もいらっしゃると思います。
「家族信託」をなんとかわかりやすくお伝えしたいと思っているので、その一念です。
認知症患者1000万人時代ともいわれる中で、成年後見制度も少しずつ世の中に浸透し始めているようです。
成年後見制度は2000年(平成12年)にスタート。
対する家族信託は2007年(平成19年)に施行と少し遅れて始まりました。
ひとことでは「家族信託とは」をいえないほど内容が深いので、画期的な機能を持ちながら成年後見よりさらに一歩も二歩も遅れをとっているようです。
正直いって私は、成年後見制度をごく一般的なご家族が「認知症対策」として利用することには強い危惧を感じています。
ただ、ご本人の認知症が進んでいる場合、次に取る手は➀そのまま我慢するか、②不満はあっても成年後見制度を使うか、に限られてしまいます。
なんと多くのご家族が深く考えないまま「成年後見制度」の申立てをし、期待を裏切られほぞをかんでいることでしょう。
多くの場合、もっと早く家族信託のことを知っていれば「違う今」を迎えられていたはず。
そういう思いがあるので私は、家族信託が社会に認められることを熱望しています。
しばらく徹底的に、この新しい制度をブログで紹介していこうと思っています。
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◎成年後見に代わる認知症対策の切り札「家族信託」の詳細パンフレットを作成しました。
家族信託の仕組みの解説8ページ、実際の事例紹介・委託者の常況ヒヤリングシートで10ページ、といった構成です。ご希望の方に郵送します。
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▼パンフレットの詳しい内容を知りたい方はコチラをご覧ください。
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静岡県家族信託協会
ジャーナリスト石川秀樹(相続指南処、行政書士)
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