相続周辺の相談を受けていて感じること、それは───
辛口ですが、はっきり申し上げます。
知識がまったくあやふやで不正確だということです。
だから心配になって、隣人・知人に雑談のように「悩み」をポロリ。
すると隣人はこれまた間違った体験談を話してアドバイスする。
これ、最悪のケースです。
隣人・知人の話はうのみにしないでください!
聞く相手をあなたは間違えています。
間違った助言に従っておかしな「対策」はゼッタイに禁物です。
どなたでも知っている(と思っている)遺言についても”誤解””勘違い”は山ほど。
高齢のみなさんのために開いた「遺言講座」の講義録の一端をご披露しましょう。
■あなたはなぜ「遺言」を書くのか
遺言で何ができますか?
遺言でできるのは、自分の死後に私の財産を誰に何をあげるか、だけ!
(遺産仕訳帳みたいなもの)
- 相続人に対して、財産の分け方、取り分などについて指示する
- 相続関係人の身分について(認知、相続人の廃除)決められる
- 相続人以外の人や団体に対し財産を分けられる(遺贈や寄付、信託を設定)
- その他、遺言執行者の指定、祭祀承継者の指定ができる
つまり、「私の財産をどうしなさい」と指示ができるだけ。
何でもできると思うのは大間違いです。
遺言する目的はなんですか?
- 自分が生きて築いた財産の始末をつけること。(上手に!)
➡ 財産は受け取った者の人生に影響を与えます
・だから自分の財産を把握しておきましょう - 自分が死んだ後の混乱を防ぐ
・なぜ「混乱」するのか………
相続が「争族」「争続」といわれるほど混乱するのはなぜ?
Aさんの財産は、Aさんが亡くなったらどうなるかご存じですか?
ヒント → 瞬時に「所有権」が移ります。
誰に?
応えはコチラです ↓
「共有」という言葉の意味を知ってください。
Aさんが亡くなった瞬間に(日本の相続法である「民法」は)「亡Aの遺産は法定相続人全員の共有に帰す」と考えます。
現金も預貯金も株や生命保険も不動産も、相続人全員が「共有している」ということになります。
※生命保険だけは判例の積み重ねで「相続財産には入らず、受取人固有の資産」とみなされるようになりましたが、税務的には相続財産とみなされます。
共有状態では「共有者全員の一致」がなければ財産を自由に処分できないので、どうしても分け直し(つまり「遺産分割」の協議)が必要になります。
生きているうちは「Aさんのもの」だった財産が、死んだらあの世には持っていけないという理由で、法は強制的に「法定相続人のもの」としているわけです。
「法定相続人」という言葉にご注意ください。
逆に言えば、どんなにAさんと親しくても、Aさんの療養看護に尽くしたとしても、法定相続人でない人は1円の権利もないという意味です。
これはたぶん「Aさんの思い」とはかけ離れているのではないでしょうか。
「俺の財産はそういう風に分けられたくない」と思ったAさんは何をすべきですか?
➡ もう一度、遺言の意味を考えてください。
「法定相続」のことを正確に知ってください
今度は「法定相続」のことを考えてみましょう。
下のイラスト、「私」が亡くなると ➡ 誰が法定相続人でしょう?
答えは「妻と長男と、離婚した前妻との子」です。
(オレンジの点線=同居家族、以外の人が入っていることにご注目ください)
長男の嫁としてAさんと同居して献身的な介護をしていたお嫁さんは「法定相続人ではない」ので、何ももらえません。
では「私」が亡くなった時、長男がすでに他界している場合はどうでしょう。
Aさんの孫は父(Aさんの長男)を代襲して遺産の4分の1をもらえますが、お嫁さんは相変わらず蚊帳の外です。
前妻の子とはほとんど音信不通なのに……、と思ってもお嫁さんの空しさは埋めようがありません。
相続が始まってしまえば、解決策はまったくないのです。
(打つ手なしなんですよ)
Aさん(私)が遺言さえ書いていてくれればこんなことにはならなかったのですが。
(こういう話が多すぎます!)
日本の年寄りはどうしてこう身勝手で、周囲への配慮が足りないんだろう、と思います。
(私がAさんなら「配慮すべきはお嫁さん」と第一番に考えます)
「遺言」を書くのはあげたい人にあげるため
なぜ遺言を書かなければならないかと言えば、
遺言を書かないと「(あなたが)あげたい人」にあげられないからです。
遺言を書かない限り、あなたの遺産は当然に、あなたの法定相続人に共有されます。
ほかのどこにも行き場はありません。
だからあなたが法定相続人以外にも財産を渡したいなら、あなたは遺言を書かなければなりません。
《みんなで話し合えばうまくいくだろう》
は幻想です。実際にはそんなことは不可能なんです。
たとえをあげましょう。長男のお嫁さんの話です。
遺言がなければ相続人以外にはあげられません
Aさんは自分を大事にしてくれたお嫁さんに深く感謝していました。
その気持ちは妻も、長男も分かっています。
ところがAさんは遺言をのこしていない。
遺産の相続分は、妻1/2、長男1/4、前妻の子1/4、お嫁さん0です。
それではお嫁さんがかわいそう、ということで長男が母親と相談して母の相続分を半分にして1/4をお嫁さんにあげようと決めます。
しかし、妻1/4、長男1/4、前妻の子1/4、お嫁さん1/4という遺産分割協議書は作れません。
なぜならお嫁さんは「法定相続人ではないから」です。
Aさんが遺言でお嫁さんに財産の1/4を遺贈する、と書いていれば話はまったく別で、何の問題もなく父の遺志は実現したはずです。
しかし遺言者以外の相続人が談合しても、自分たちの相続する分を相続人以外に分けることはできません。
分けるには相続人がいったん相続して、その中から一部を贈与するしかありません。
当然、贈与税が発生するわけです。
遺言は法定相続を崩すための手段です
今の話で、お母さんの相続分を実際に半分取り上げるのは、感心しません。
お母さんの老後が不安定になりますから(長男と嫁が扶養義務を果たすなら別ですが)。
ですから相続人が出し得る知恵としては、一次相続では(前妻の子の分を除いた)全財産をお母さんに相続してもらう。
お母さんが亡くなる二次相続では、お母さんが遺言を書くなり、お嫁さんが養子になるなりして、長男とお嫁さんが半分ずつ承継するというのが”賢い相続”ではないでしょうか。
※なお「前妻の子」はAさんの妻とは血縁がないですから、二次相続では法定相続人から外れます。
遺言は、民法が決めてしまった「法定相続分」を崩す唯一の方法です。
※生前贈与や死因贈与でも相続人以外に分けられますが、「贈与」と「相続」では意味が違います。
だから遺言は(法定相続が「公平」だとすれば)不公平に分けるために書くのだとも言えます。
民法のいう「公平」は亡くなる人の意思を一片も考慮していない「公平」です。
遺す人が意思を通したいなら、遺言は最も有力な手段です。
■遺言を書かなければならない人
兄弟姉妹の相続と「妻」
ちょっと脱線しますが、こんな話も多いんです───
いわゆる「兄弟姉妹の相続」を紹介します。
Aさんが亡くなります。奥さんとの間に子はいません。
Aさんの兄弟姉妹は3人。先年、弟が亡くなりました(子が1人います)。
Aさんの両親はすでに他界しています。
この相続、誰が法定相続人ですか?
答えはイラストに表示されている「全員が法定相続人」です。
私が何を言いたいか、わかりますか?
あなたは「妻が法定相続人だ」と思いませんでしたか?
夫婦に子はいない、ならば相続人は妻だけ。
だから「私が全部もらえる」と。
そう思われていたなら”危険な誤解”です‼
Aさんの左側の人たち、亡くなった人の子(Aさんの姪)までが相続人となります。
Aさんに子はいない、両親も他界している、となると兄弟姉妹が「第3順位の相続人」として浮上してくるのです。
亡くなった人の配偶者は常に相続人ですが、第1順位(子)、第2順位(両親)、そして第3順位の人がいる限り「総取り」とはなりません。
兄弟姉妹が相続人である以上、「法定相続分」が決められています。
兄弟姉妹は第3順位の相続人ですから相続分は少なく、4分の1です。
4分の1を3人で分けるので各自12分の1を遺産として受け取れるということになります。
(ただし、兄弟姉妹に遺留分請求権はありません←ココ、重要)
夫の怠慢が「妻」を泣かせる
「少ない」と思いますか?
Aさんの遺産は不動産を含め3600万円相当だったとしましょう(不動産は2400万円)。
12分の1だとしても「300万円×3人」、つまり900万円を親戚の人に持っていかれるんですよ。
Aさんの妻は当然「自宅(2400万円相当)」を相続するでしょう。
残るは現金と預貯金1200万円。大切な大切な老後のための資金です。
そのうちの900万円もの大金を親戚に差し出さなければならない。
長い老後を300万円でどう乗り切っていけるというのでしょう⁈
Aさんが遺言を書いておかなかったばっかりに!!!
こういう無責任を、私は許せないんです。
Aさんは知らなかったのでしょう。
Aさんの妻も知らなかったから何も「対策」をしなかった。
しかし、それでも、正確な知識を持っていなかったのは「罪」です。
1行の自筆遺言が「妻」を救う!
私は生涯学習交流館や老人福祉センターなどでよく講座を開きます。
そのたびに必ず言うのが、
「たった1行でいいから、今すぐ遺言を書いてください」
あるいは「あなたの夫に今すぐ遺言を書いてもらってください」です。
コレです───
遺言書
遺言者静岡太郎は、妻静岡花子に私の全財産を相続させる。
平成○○年○○月○○日
静岡県静岡市○○区○○町○丁目○番○号
遺言者 静岡太郎 ㊞
しかしその後、「私、夫に書いてもらいました」という声は一向に聞きません。
なぜ私が「遺言」の講座やセミナーをやるかと言えば、
遺言を書くべき人に遺言を書いてもらいたい、
今すぐ、一歩を踏み出してもらいたいからですよ。
「きょうはいい話を聞いた」で終わってもらっては困ります。
ホント、いつも空しい気持ちになります。
遺言は”普通のうち”でこそ書くべきもの
前半で「遺言は法定相続を崩すために書く」といいました。
ピンポイントで、あげたい人にあげられるように書く。
(現金を特定の人にあげたいなら「生命保険」もよい手段ですね)
後半を書いた意味は、遺言を書いてあげなれければ大切な人を守れない、という場合がたくさんあるということです。
そんなことは特殊なケースで、私には関係ないと思わないでください。
講座で口を酸っぱくして「書け」「書け」といっても書いてくれない理由は、「うちには関係ない」と思っているからです。
でも、本当にそうなのでしょうか。
守りたい人、守ってあげなければならない人がいるのは、多くのご家庭でそうなのでは?
例えばあなたが男性なら考えてください。
あなたが「全財産を妻に相続させる」と遺言に書かなくても、奥さんの老後は本当に安全ですか?
あなたのお子さんは、あなたが亡くなった一次相続で母親に「法定相続分をほしい」なんて理不尽なことは決して言わない人ですか?
あなたが遺言を書いても、子がわからず屋なら、妻に全財産を相続させるのは不可能です。
でも少なくとも、「法定相続分」という主張を完封し、「遺留分減殺請求」しかできないようにすることはできます。
ピンと来ないでしょうから、4000万円の相続財産で説明します。
あなたの相続人は妻と子2人。
法定相続分は、妻2000万円、子1、2各1000万円。
遺留分は法定相続分の半分ですから、子1、2の遺留分は各500万円ということになります。
その結果、妻は3000万円相当分を手にできます。
これでも痛手ですが、遺言を書いただけで”痛手”を半分にすることができたのです。
1次相続で「法定相続分」などと言わせるな!
私はかねがね、普通の家庭の1次相続では「配偶者が全財産を相続するのは当然のこと」と言い続けています。
1次相続で「子に法定相続分」などと言わせるな!、です。
超高齢社会ですからね、夫が亡くなって平均15年間、妻は生きます。
その15年間を想像してみてください。70代から100歳近くまでですよ。
健康で何ごともない、何の憂いもない毎日だと思いますか?
介護や医療で、思いがけない出費を強いられることもあるはず。
家族が周りにいますか?
親のためならどんな手間も、出費もいとわない家族ですか?
地域社会は高齢者や認知症の人を手厚く見守りますか?
行政は何も言わなくても手を差しのべてくれますか?
最低でも「困った時にはこの専門家を訪ねなさい」と具体的にいってくれますか?
そういう環境にあるなら、あなたは遺言を書く必要がありません。
そうでないなら、遺言を書くのはあなたの使命です!
◇「遺言」について言わずにはいられないこと<続きの項目>
まだまだあります。
長くなったので、別の記事でまた書くつもりですが………
以下のような内容+何かもっと有益な情報を追加する予定です。
- 法定相続人(順位も)と法定相続分をおさらいしましょう
- ついでに、「遺留分」ってなんですか?
- 遺言は絶対的なものですか?
- 遺言は秘密にしておきたいですか?
- 自筆遺言と公正証書遺言はどっちがいいの?
- 自筆遺言だと「無効」になる場合が多い⁈
- 遺言はいつ書けばいいですか?
- 遺言は誰が書く? うちは財産がないから………
- 遺言はお父さん(父、夫)が書くもの、だって⁈
- あなたはもうひとつ思い違いをしている‼ ➡ 2つの大きな問題が
- 遺言を書けば危機が乗り切れますか?
- 遺言を書けばすべて解決しますか?
- 相続対策は多様な観点が行わなければならないのでは?
- 認知症対策を欠いては相続対策は完結しないのでは?
- 成年後見は“大問題”です‼
- まとめ
◎遺言・家族信託・後見制度・認知症対策・延命と尊厳死・終活・死後の心配についてメールで無料相談を行っています。
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静岡県遺言普及協会
ジャーナリスト石川秀樹(相続指南処、行政書士)
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