「相続税」を考える場合の”盲点”をお教えしましょう。
それは「順番」です。
男性の皆さんにお聞きします。
「あなたが先に逝くって、決まっていますか?」
緻密な?相続税対策も、奥さんが先に亡くなると一瞬のうちに崩れます!
■男目線の相続対策には”穴”がある!
「うちは優秀な税理士が付いているから、相続税対策はバッチリ」
なんて言う人に限って、「順番」という視点が抜け落ちています。
事業家の多くは私が「相続税対策を」などと言う前に、とっくに事業承継を考え、相続税の負担も考えて入念な手を打っておいででしょう。自信満々に・・・・。
でも、相続ほど”男性中心の発想”に呪縛されているものはありません。
万能感をもつ優秀な経営者ほど、その思い込みが強い。
そもそも企業会計に強い税理士さんで、「相続」にまで精通している人なんて、めったにいません。
「相続」に精通している士業の方でも、あなたの想いや、遺される方々の心の問題や不安までもくみ取って「相続対策」を提案できる人は、これまた極めて少数と言わざるを得ません。
すいません、脱線していますね。
相続の「順番」が狂うとどういうことになるのか、数字で説明しましょう。
■配偶者がいれば相続税は”格安”!
【事業家のAさん(70)の例】
苦心惨たんして資産3億円を「正味の遺産額2億円」にまで圧縮しました。
想定している相続人は、妻と2人の子です。
正味の遺産額は税務上の概念ですから、実際の相続財産よりかなり圧縮されています(詳しくは上のリンクをたどってください)。
相続税を計算する場合、この正味の遺産額からさらに「基礎控除額」を差し引き「課税遺産総額」を出します。
Aさんの相続の基礎控除額
3000万円+600万円✕3人=4800万円
するとこの相続の「課税遺産総額」は1億5200万円です。
ここからは相続税の計算です。
(お急ぎの方は「結果」だけご覧になってください)
日本の相続税のユニークな点は、まず「課税遺産総額を、法定相続分で分割したものとして各相続人の税額を出し、いったんそれを総計する」ということです(これが第一段階)。
妻の法定相続分は1/2、子はそれぞれ1/4です。
妻 1億5200万円✕1/2=7600万円
子1 1億5200万円✕1/4=3800万円
子2 1億5200万円✕1/4=3800万円
この金額に税率を掛け合わせます。
「速算表」はこれです。
妻 7600万円✕0.3-700万円=1580万円
子1 3800万円✕0.2-200万円=560万円
子2 3800万円✕0.2-200万円=560万円
3人の合計 1580万円+560万円+560万円=2700万円
2700万円がAさんの相続における相続税の総額です。
ここから第2弾の計算があります。
相続税の総額を各相続人が実際に相続した額で按分するのです。
ここでは実際の相続も「法定相続分通りに相続した」としましょう。
するとこうなります。
妻 2700万円✕1/2=1350万円
子1 2700万円✕1/4=675万円
子2 2700万円✕1/4=675万円
以上が各相続人の納税額となりますが、ここで「配偶者の税額軽減」が適用されます。
法定相続分の半分までか、1億6000万円以内なら配偶者の相続税はゼロ円です。
妻が相続したのは法定相続分の1/2でしたから[1350万円 → 0円]
したがってAさんの相続で実際に納税するのは子2人のみで、税額は総計1350万円。
■子のみだと相続税は跳ね上がる!
しかしもう一度質問します。
Aさんが奥さんより先に亡くなる、と決まっていますか?
決まっていませんよね。
奥さんが先に亡くなると相続税はこうなります。
計算結果だけ書きます。
子2人が正味の遺産を1億円ずつ相続します。
相続税は2人合わせて3340万円!
Aさんが1億円分も節税策を講じなかった場合、つまり正味の遺産額が3億円のままでも、もし妻が生きていれば相続税は2860万円です。
1億円分も減らした結果、配偶者がいる場合は1350万円になりますが、
いなければ3340万円も掛かるということです。
[1350万円:3340万円:2860万円]
3つの数字を比べてください。
■「順番」の逆転は心に深手
「順番」が逆転すると、無理に無理を重ねて”圧縮した1億円の効果”が消し飛びます。
消し飛ぶどころか480万円も余計な相続税を払わなければならなくなる。
「配偶者の税額軽減」の特例を使えず、相続人が1人減った結果です
Aさんは税理士や司法書士、銀行、保険会社、不動産業者などさまざまな”相続対策の専門家”の話を聞いて、正しい完ぺきな節税策をしているつもりで行動したのです。
生前贈与、生命保険はもちろんのこと、いりもしないマンション(1室)を買い、転貸しまでしました。
すべて課税される財産の額を減らすためです。
でも人の運命は計り知れませんよね。
思いがけず奥さんが先に亡くなり、激しいショックを受けた上に、予想外に重い相続税負担を子らに掛けることになってしまいました。
残った財産は自宅と他人に貸しているマンション、現金や預貯金は大幅に少なくなり生命保険ばかりが増えました。
これからは納税資金をどう捻出するかですが、なんだかむなしく、とてもそんなことをする気がなくなってしまいました。
「順番」の逆転は、まことに大きな痛手になります。
■ベストな対策は「夫婦の資産」のバランス
亡くなる人の「順番」で相続税額は大きく変わることはわかった、でもそんなの偶然だからしょうがないじゃん──とおっしゃいますか?
「では、どうすればよかったの?」と。
簡単です。
Aさんは「数字」を圧縮するために余計なことをしないで、奥さんにどんどん資産を贈与して、夫婦の財産の額をバランスさせればよかったんです。
Aさん3億円、奥さんはゼロ円という資産構成が、そもそも決定的にいただけない。
使いもしないマンションを買うくらいなら、そのお金を奥さん側に移すべきでした。
そうすれば奥さんの老後の不安はなくなります。
正味の遺産を1億円も”圧縮”した結果、Aさんの資産は先ほど書いたように不動産2件と多額の生命保険。
現金や預貯金がずいぶん減ってしまいましたから、子2人は納税資金を出せたかどうか・・・・。
また奥さんが生きていて首尾よく「節税相続」ができたつもりでも、実は奥さんが必要なのは現金です。
老後には病気や認知症、要介護状態になるなど、何が待ち受けているかわかりません。
そんなとき何より頼りになるのは現金と、家族の絆なんです。
Aさんや、Aさんに相続税対策を勧めたさまざまな業種の人たちはそこまで”計算”できていたでしょうか。
このように男性の目線で相続を考えると、バランスの崩れに思いが行き届きません。
誰にとってどんな財産が必要か、と言う深謀遠慮と、夫婦間の資産のバランス。
この点、ベストな相続対策は何かと言うなら、答えは「夫婦の資産構成をほぼ半々にすること」です。
奥さんが半分の資産を持っていれば、夫が”節税お宅”になって資産構成を無茶苦茶にしても、目くじらを立てないでいられることでしょう。
夫婦間の資産のバランスこそが最善の相続対策であることはとても重要なテーマで、近日中にあらためて別稿で解説をするつもりです。
きょうのところは「相続対策のキモの1つは『順番』である」を、覚えておいてください。
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<ジャーナリスト石川秀樹(相続指南処、行政書士)>
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