「私の妻〇〇に全財産を相続させる」
この遺言は遺産分割協議をした挙句、子らに「法定相続分」を要求され途端に妻の老後が不安定になるという、あってはならない事態を防ぐための”魔法の1行“です。
■「うちはもめない」という幻想
と書いてもあなたは、何も感じないのではないですか?
あなたは勘違いしているからです。
私には関係ない、わが家でそんなことは起こらない───と。
根拠などどこにもない「思い込み」があなたの心を占拠しています。
でも、日本の相続の実態は、あなたが考えているようなことではないんです。
あなたは世間からは”ご主人”と言われ、お持ちの財産もほとんどはあなたの名義。
あなたのマイホームももちろん「夫名義」でしょう?
そんなこと、昭和の時代では当たり前でした。
■無防備が最悪事態を招く
でも平成の今は、そういう”当たり前の無防備”が、あなたの奥さんを不安定な老後に追いやってしまうのです。
ご夫婦で築いた財産のうち、一番大きなものは「自宅」、名義は「夫」。
するとあなたが先に亡くなると(日本では、十中八九は夫が先に亡くなります)、
「自宅」は相続財産となって、理論上はあなたが亡くなった瞬間に法定相続人の共有財産になります。
難しい書き方をしてしまいましたが、要するに「家はあなたのものではなくなり、妻や子のものになっている」ということです。
(妻のもの、ではないんですよ! 子も権利者です‼)
亡くなるとあなたの財産はあなたのものではない、この意味はとても重要です。
しかもその財産は、一切合切すべてを含めて相続人全員のもの。
この状態を「共有」というのですが、共有状態というのは不便極まりません。
何をするにも基本的には「全員一致」でなければできません。
家を売る、預貯金を各自に分ける、財産の何かを自分単独のものにする………
いろいろな場面で全員が賛成しなければ何もできないことになります。
だから民法では、できるだけ早く「相続財産の共有状態」をなくそうとします。
「遺産分割協議」という言葉を聞いたことがあると思いますが、相続人間で遺産を分割して(できる限り)個人個人の財産にしてね、という狙い。
共有状態を「分割」によってなくすわけなので、ここでも法定相続人の全員一致が求められます。
(この「全員一致」がクセもの)
各相続人の権利意識が強くなっている平成時代の今は、遺産分割協議はよくもめます。
先ほど「均分相続」と書くとき、パソコンは「金分争族」と変換候補を打ち出してきました。
(言い得て妙ですよね)
■遺産分割協議に持ち込ませないのが遺言書
さて、ここからが本題です。
遺産分割協議はもめる。
押しが強い者が協議を支配してしまう。
あなたは亡くなているから、「かつての財産」の分け方にあなたはもはや関与できない。
こういう状態にさせないのが遺言書なんです。
民法は第902条で「遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる」と定めています。
つまり遺言は遺産分割協議に優先する。
理論上は「亡くなった瞬間に相続人の共有財産となる故人の財産」を元の状態に戻し、自分の財産の分け方は自分で決められるようにするのが「遺言書」。
遺言がないと、遺産分割協議が行われてしまいます。
(声の小さい妻の運命は風前のともしび⁈)
あなたの財産に対する処分(どのように分けなさい、という指示)は、あなたが生きているうちに遺言書によって決めておかないと、誰かがあなたに代わってあなたの意思を実現してくれる、なんてことには絶対にならないわけです。
《私の財産は妻が当然相続すると思っていた》
というあなたの無防備な意思は、遺産分割協議で子の誰かが強く主張すれば、あっという間に粉砕されてしまいます。
■今すぐ魔法の1行を!
▼遺言は資産家が書くもの、▼うちは仲がいいから(お母さんの老後のことを考えて)子どもたちがいいようにあんばいしてくれるだろう、という甘い見通しは今日日、通用しません。
戦後70数年、あなたが思い描いているような「家督相続」ははるか昔に消え失せ、長男は母を守ってくれませんし、子は子で「兄弟姉妹はみな平等な権利がある」とばかりに、のこされたお母さんの事情など考慮せずに自分のもらい分を主張する、ということが多いのです。
だからあなたにはこの記事を読んだ今、「妻に全財産を相続させる」と魔法の1行を書いてください。
遺言は私たちのような庶民にこそ、必要です。
[aside type=”warning”] もちろん、あなたが「全財産を相続させる」という単純な遺言を妻のために書いても、それが丸々功を奏すとは限りません。民法には「遺留分」というやっかいな規定があるからです。この”怪物”に対する対策は以下の記事で何度か書いていますが、とにかくあなたが1行の遺言をのこしてさえおけば、少なくとも「遺留分を半減させる」という効果があります。
今すぐ何かの紙に1行書いてください。その文書の下に、日付と住所と署名、それにいつも使っているあなたの判か実印を押しておくことをお忘れなく。これで「遺言書」は完成です。 [/aside]
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静岡県遺言普及協会
ジャーナリスト石川秀樹(相続指南処、行政書士)
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