「石川さんは保険にどんな印象をもっていますか?」
用件が一段落した後、彼がやさしい口調で聞いてきた。
保険会社の幹部である友人に以前から「保険の話を聞かせてよ」と言ってきたので、その話かと思い、申し訳ないとは思いつつ、正直な感想を述べた。
「少しうっとうしいかな・・・・」
■保険という「傘」を買ったのに開きもしない
すると、彼はこんな話を始めた。
「うちの父が先日、87歳なんですけどね、保険の満期で保険金をもらいました。いくら出たと思います?」
口調が口調だけに『低かったんだろうな』と予想して、控えめに「500万円とか・・・・?」と答えると
「80万円ですよ!」
何十年も毎月コツコツ保険料を支払ってきた。
「私がこういう仕事につきましたから、何度も父には老後の資金は大丈夫かと聞いてきました。そのたびに『保険に入っているから、いいよ、いいよ』で終わる」
で結果は、老後資金に到底足りない80万円。「この話、第一番に悪いのは保険会社です。何を説明してきたのかと思う。でもね・・・・」
彼は話を続ける。「保険は雨降りに備えて、晴れているうちに傘を買うようなものだと思うんです。石川さん、傘を買ったらどうしますか?」「それは・・・・開きますね」「でしょう! でも保険は、多くの人が、ほんとうに多くの方が、せっかく買ってきたのにその傘を開こうともしないんです」
■人生の「IF」に備えるのが保険
思い当たる節がある。
「石川さんはいくつ保険に入っていますか?」「5つくらいはあるかな。がん保険だけで3つも入ってますから」「内容を知っていますか?」「さあ、家内が契約したので。この前、『保険関係はここにあるわ』と山ほどの書類を見せてくれたんですけどね、めんどくさくて見なかった」
私も”傘”をしっかり開いて出来栄えを確かめるようなことはしてこなかった。
そういう売り方をしてきた保険の業界が、もちろん悪いんです」と言いながら、今度は白板に「LIFE」と書いた。
「生まれると『Live』、亡くなると『End』。ね、人生(LIFE)の始まりと終わりにはLiveとEndがある。では真ん中には何がありますか?」
「あっ、そうか、Insurance! 保険だからInsuranceでしょ」
「・・・・・」
違うらしい。
「LとEの間にあるのは『IF』です。人生の真ん中には『もしも』があるんだと思いませんか?」
もしも、万が一、不測の事態・・・・。
人生は晴れた日ばかりではない、思いがけない出来事が起きることがある。
そんな時に守ってくれるのが「保険」なのだが、日本ではこれまで保険のイメージはよくない。名前が「生命保険」。まさに”命に掛ける保険だ”と聞こえる、あるいはもっと露骨に”命に賭ける保険”だと思われてきた。命と引き換えだから、掛けられる方としてはおもしろくない。”死”を期待されているようなイヤーな気分。
英語ではどうか。保険は「Life insurance」。人生の保険ということになる。
「石川さんは誰のために保険に入っていますか?」
「妻かな」「そうですよね、家族や奥さんのために入る。人生には何があるかわかりませんから、保険に入るのは<責任>であり<義務>でもあると思います」
と言いながら友人はまた白板になにやら書き始めた。
■保険は長生きリスクに効く薬
うろ覚えの図を彼の話を振り返りながら<図>にしたのが上のイラストだ。
ここでも家族のエピソードから話し始めた。
「家内が老後のための資金作りについて銀行に相談に行ったらしいんですよ。そうしたら行員は『それなら、保険でしょう』といったという。それで初めて『だから、あなた教えて』というわけです。それほど保険の効用、信じられていない」
その時もこんな図を描いて説明したのだろうか───
「国の年金がこんな時代だから、30歳ぐらいから貯金を始めたとしますよね。毎月コツコツ、コツコツ65歳までの35年間。でもずっと貯め続けられる保障はありません。45歳でがんが発見された、重い心臓病になって心臓にペースメーカーを入れることもあり得る。もう貯金どころではないでしょう? ところが生命保険には、そんなとき保険会社が代わりに保険料を払ってくれるという「高度障害保険金」という仕組みがあるんですよ」
「石川さんは今、おいくつですか?」「65歳です」「何歳まで生きられると思います?」「うちは両親とも長生きだから、90歳までは生きるでしょう」「そうですね。87歳です、日本の平均寿命は。でも実際に亡くなる年齢は91歳が一番多いんです」
彼は言うのだ。「長生き万一がある」と。
確かに”老後リスク”の最たるものは、自分が思っていた以上に長生きしてしまうことではないか。
図に戻ろう。
30歳から65歳までコツコツ、コツコツ無事に貯め終えて2000万円だったとすると。
年金と貯金の取り崩しで「何年暮らせるだろうか」という話になりそうだ。65歳から87歳まで、なんとかいけそうだとしてもその先は?
いずれにしても目減りしていく通帳の数字を気にしながら生きるのは心地の悪いものになりそうだ。
「終身保険なら、毎月10万円、先のことを気にせず生きている限り払われるという設計が可能です」
なるほど”長生き万一”ねぇ。私なぞ91歳どころか、どこまで生きてしまうかわからない。だから「95歳現役」などと触れ回っているのだが、ほんとうのところその成否は誰にもわからない。最後は「ひとり」になって、しかもお金がないのではたいそう不安である。介護を頼むにしろ、施設に入れてもらうにしろ、その基盤はおカネか・・・・。
■傍観者をやめて「保険」取材に全力!
長い人生の中で、保険のことなんか考えたこともなかった。
それを最近、『徹底取材しなければ』と考え始めたのは、「相続に生命保険が実に有用に使える」と気づいたからだ。
保険の有用性は単に「相続税の基礎控除額を法定相続人1人当たり500万円増やせる」といったことだけではない。
もっと劇的な活用法がある。「保険」は、遺言書と合わせて使えば、相続に伴うあらゆる問題をほぼ解消してくれる最強のツールになりそうである。
しかしそんなことを考えながら、わがこととなるとまるで”傍観者”だった。
その点を彼は見抜いていたのかなぁ。
『それでこんな初歩的な話を・・・・』
今回聞かせてもらった話は、保険のことを少しでも知っている人なら初歩の初歩の話だったと思う。
しかし私を含め、成人者の8、9割は何らかの保険契約をしているにもかかわらず、その中身についてはほとんど知らないし、知ろうともしない。
保険と言えば強引に勧誘され、でもその必要性もなんとなくわかるので、つい1つや2つ加入してしまう。そういった商品である。
その印象が世間には染みついている。
あの手この手、生保のCMは毎日のように目にするが、私たちの心に届いているとはいえない。
友人の悩みはそこにある。だからこそあえて、「自分の家庭ですらこのようですよ」と”実態”をさらけ出して語ったのだと思う。
◇
この間、保険は急速度に進化しているようだ。適用範囲が実に細かく設定され、その人にあったピンポイントの財政・家計対策の助けになりそうである。
今後折に触れ「保険」の話も、この相続ブログで書いていきたくなった。
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<ジャーナリスト石川秀樹(相続指南処、行政書士)>
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