静岡花子さんは時価6000万円の豪邸に1人暮らしです。
悩みがあります。このマイホーム(子にとっては実家)が”争族”の火種になりそうなのです。
そこで、実家の相続で兄弟がもめるくらいなら家なんか売ってしまおうと換価分割を決心をしたのです。
■換価分割の遺言を書いたものの
こんな遺言を書きました。
遺言書
遺言者静岡花子は以下のように遺言する。
1. 私が現在住んでいる静岡県静岡市葵区○○1丁目1-1にある私の家と土地は、私の死後、法定相続人である静岡太郎(長男)と静岡次郎(次男)が売却すること。
2. 私の実家を売却して得た金額のうち、税金やその他売却にかかる諸経費を差し引いた残りの金額を静岡太郎、静岡次郎に均分に遺贈する。
3. 私の現金と預貯金等の金融資産の一切も、両人に均分に相続させる。
【付言】 本来なら長年住み続けてきた自宅には思い入れがあり、兄弟のどちらかに相続させたかったが、この家があることにより兄弟が反目し合うようになったことを感じ、私は「マイホーム」を売却することを条件にして一番大きな財産を両人に分け与えるものである。私の痛切な思いをよくくみ取り、お父さんと私の供養を欠かさないようにしてもらいたい。
平成○○年○○月○○日
○○県○○市○○区○○町○丁目○番○号
遺言者 静岡花子 ㊞
お母さんの嘆きと怒りが伝わってくる遺言書です。
この家の状況はこんな感じです。
マイホーム(家と土地)6000万円相当。
預貯金と現金2000万円程度。
花子さんは当初、家は兄に、現金等は弟にと思っていました。
2人とも特に親孝行というわけではありません。
独立して家庭を持ち、それなりに家族仲良く暮らしているようです。
■莫大な価値を前にケンカだなんて
ところが花子さんが相続の話を始めたところ、2人とも「割に合わない」と言い出したのです。
弟が兄に代償金として2000万円を要求したことから、兄が切れてしまいました。
静岡家の財産は花子さんが夫の財産を多めに相続した(不動産をそっくり相続したので財産価値としては高くなりました)ため、現在、総額で8000万円あります。
法定相続人は兄と弟ですから2人。
従って法定相続分は4000万円、遺留分は(計算上は)2000万円です。
豪邸は6000万円の価値があるとされていましたから、弟は法定相続分に届くよう「代償金」として2000万円を要求したわけです。
しかし兄は不満です。「弟に2000万円もなんて」・・・・。
無理もありません、普通のサラリーマンですから。
第一、兄はすでにマイホームを持っており、2軒目の豪邸なんかいらないのです。
さらに地方にある家ですから売りにくく、買いたたかれるのが目に見えている。
家を引き継げば改修費が掛かるし固定資産税もばかにならない。
相続税も弟の3倍払わなければならない。
それなのに「さらに代償金だって⁈」と怒り心頭に発してしまったのも無理からぬところでした。
■お母さんが自ら家を売却!
だから花子さんは冒頭のような遺言を書いたのです。
しかし結論を言いますと、花子さんはこの遺言書を破いて捨ててしまいました。
実家の相続に、もっと果断に行動したのです。
市内の不動産業者4社に電話して自宅売却の相見積もりを出してもらいました。
その中の1社に「時間は掛かってもいいからそれなりの値段で売ってちょうだい」と依頼。
ほどなくして「4800万円ですが、いかがです?」との電話を受けました。
ずいぶん値切られたものとは思ったものの「敷地が広いから分譲するしかない。造成費も掛かるし時価の7掛け、6掛けは覚悟しといてください」という不動産屋さんの言葉を思い出しました。
『8掛けならおんの字ね』と、さっさと売却してしまいました。
いま花子さんは、市中心部に近い介護付き老人ホームに入っています。
資産が6800万円あるからマンション住まいをしようと思えばできます。
しかし1人でいたら『私が倒れたときに見つけてもらえないわね』
それに老人ホームは家賃を払う形式だから、自分の所有物にはなりません。
「この歳になると”持っている”ということは不便ね」
入所に当たっては、換金できるものはすべて現金に換え、他の大半は捨ててしまいました。
断捨離です。
「お金を残してもしょうがない。残り年数でいくらくらい必要か計算して、あとのお金はぜいたくに使わせてもらうつもり」
私は花子さんの決断に感動しました。
■人生を変えた選択、断捨離を敢行!
実家の相続方法は4つあります。
- 現物分割
- 共有分割
- 換価分割
- 代償分割 です。
「らくらく文例3」と「4」で代償分割で悪戦苦闘するお兄さんの例を紹介しました。
写真のように、家を2つに割るのは現実的ではありません。
相続でよく使われるのは不動産の持ち分を相続人で「共有」すること。
確かに公平にはなるけれど、実質的に売却・賃貸・解体などの処分行為には全員一致が求められるので非常に使いにくくなる上、次の相続でますます共有関係が複雑になり収集がつかなくなる可能性があります。
換価分割が難しいのは「お母さんが現に住んでいる」という場合が多いからでした。
この例では、お母さん自らが決断したのです。
すっきり分けやすくなった、というより、お母さんの老後の人生が劇的に変わりました。
ホームには同じような境遇のご婦人たちがたくさんいますし、運営主体がしっかりしているので行事も多彩。
85歳にして花子さんはますます多趣味になってきました。
実家の相続、こういう選択肢もぜひ検討してみてください。
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静岡県遺言普及協会
ジャーナリスト石川秀樹(相続指南処、行政書士)
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